7月 02, 2017 14:59 Asia/Tokyo
  • 預言者ユーヌスとニネヴェの民
    預言者ユーヌスとニネヴェの民

今回は預言者ユーヌスとその民、ニネヴェの人々のお話です。

古代メソポタミア北部にあったアッシリアの都市、ニネヴェの町には、偶像崇拝が広まっていました。人々の心は荒廃し、愛情や友情、思いやりというものが全く見られませんでした。大勢の人が集まり、ナツメヤシの木と自分たちが作った偶像の前にひれふしていました。ユーヌスは、そうした人々の姿に悲しみを抱きながらも、信仰に溢れた心で自らを奮い立たせ、彼らの方へと近づき、声高らかに呼びかけました。

 

「人々よ。あなたたちの理性は、偶像などを崇拝するよりもずっと崇高なもの。あなたたちの人格は、このような魂を持たぬものに平伏すよりもずっとずっと、価値のあるものなのだ。そのことに早く気づきなさい。怠惰の眠りから目を覚ますのです。この偉大な世界には、唯一の神が存在する。その方と等しい地位にあるものは何一つ存在しない。神の偉大なる本質こそが、唯一、崇拝に値するものである」

 

少しの間、人々の間に沈黙が広がりました。人々が我に返る前に、再びユーヌスの声が辺りに響きました。

 

「神は私をあなたたちのもとに遣わされた。あなたたちを救いの道へと導くために」

 

しかし、ユーヌスの言葉が終わらないうちに、彼の言葉に腹を立てた人々が前に進み出て言いました。

「あなたは何ということを言うのか。ここにあるのは我々の神、我々の祖先が長い間崇拝してきたありがたい神ではないか。そして、今我々もこれらの神を崇拝し、信仰しているというのに。」

 

ユーヌスはきっぱりとした口調で言いました。

 

「祖先を闇雲に模倣するのはおやめなさい。自分の理性を迷信から解き放つのです。少し考えみるがよい。これらの偶像は、あなたたちの願いを叶えてくれるだろうか? あるいはあなたたちから悪を遠ざけてくれるだろうか?いや、唯一の神こそが、あなたたちに安全と安心を届けて下さる。唯一の神だけが、あなたたちに力と見識を授け、様々な事柄を改めて、救済を得ることができるようにして下さるのだ」

 

ユーヌスの心からの呼びかけにもかかわらず、一人の人物が立ち上がって言いました。

「しかし、あなたにしても私たちと同じ人間、つまり、私たちの一員に過ぎないではないか。私たちは、あなたの言葉に従うだけの心の準備をすることはとうてい叶わない。なぜなら、あなたが私たちよりも優れているという証があるわけでもないのだから。」

そのとき、誰かがユーヌスに向かって石を投げつけ、大きな声で言いました。

「もう沢山だ。これ以上、そのような話はしなくて結構。私たちのことは放っておいてくれ。あなたが我々に望んでいることは、我々にとっては全く受け入れがたいことだ」

 

預言者フードの子孫であったユーヌスは、彼自身もまた神の預言者の一人でした。彼の母方の家系はイスラエルの民の出身でした。ユーヌスは40年間、自らの民の間で暮らし、人々を唯一神信仰へと導くことに努めていました。聖典コーランは、第37章サーファート章整列者、この中で、その民の数を10万人か、あるいはそれ以上だったと述べています。しかし、彼らは、ユーヌスの懸命な導きに、全く聞く耳を持ってはいませんでした。

 

こうしてとうとう、ユーヌスは自分の民に向かってこう告げました。

 

「人々よ、もし私の導きを拒否するのであれば、あなたたちに厳しい責め苦が下り、あなたたちは皆、滅びてしまうだろう」 

 

しかしニネヴェの人々は言いました。

「我々はあなたの脅迫を恐れたりはしない。もしあなたの言っていることが真実であるというのなら、我々を怖がらせる、その責め苦とやらを下してみればよろしい。だが、あなたの神は、我々の神々の前に何の力も持ってはいないだろう」

 

ユーヌスは、自分の民を導くことに絶望し、このように考えました。

 

「私はこの人々に対して、これ以上の責任はない。自分の責務はすでに果たした。今、この町を離れるべき時がやってきたのだ」

 

ユーヌスが、まだニネヴェからそれほど遠ざかっていないうちに、神の責め苦のしるしが、その民の上に現れました。激しい嵐が起こり、辺りは真っ暗になりました。人々の間に恐怖と不安が広がりました。そのとき、群衆の中にいた一人の賢い人物が、こう言いました。

「これは、ユーヌスが私たちに警告していた、あの責め苦の前兆に違いない。我々は責め苦が下る前に罪を悔い改め、唯一の神に赦しを請わなくてはならない」

 

こうして人々はひたすら祈りを捧げはじめました。罪への悔悟と赦しを請う民の声が、山や平原に響き渡りました。そして、慈悲深い神は、彼らの罪の悔悟を受け入れてくださり、責め苦のしるしは消えてなくなりました。

 

人々は信仰を寄せた後、ユーヌスが自分たちのもとに戻ってきて、神の預言者、使徒として、自分たちを導いてくれるよう願いました。しかし、神の命がなかったにも拘わらず、自分の民のもとを去ってしまったユーヌスは、預言者でありながら、ニネヴェの人々を放り出してしまったも同然でした。そのためユーヌスは、その後、ある出来事に遭遇するのですが、さて、この続きは第9話でお話しいたしましょう。

 

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