ことわざ:「さて、猫の首に鈴をかけに行くのは誰だろう?」
昔々のこと、今と同じように、猫はネズミの天敵でした。 ネズミたちは恰好の、猫の狩の対象だったのです。
ある大きな家に、たくさんのネズミが巣を作って暮らしていました。しかしその家には凶暴な猫が飼われていて、ネズミにとって、日々の暮らしは非常に困難で死と隣り合わせのものでした。猫を恐れるあまり、巣から顔を出す勇気のあるネズミはいませんでした。なぜなら、顔を出したが最後、すぐに猫に食べられてしまうかもしれなかったからです。
そんなある夜のこと。ネズミたちは今の状態から何とか抜け出そうと相談するために集会を開きました。あるネズミは、猫のいない家に皆で引っ越そうと言いました。別のネズミは、みんなで一斉に猫に襲いかかってやっつけてしまおうと言いました。また別のネズミは、猫と話し合ったらどうかと提案しました。とにかく、それぞれが解決策を出しましたが、どれも名案とまではいきませんでした。
そのうち、あるネズミがこんな事を言い出しました。
「僕たちは賢いんだ。そして足も速い。もしもっと早く猫が来たことに気がつけば、すぐに逃げることができる」
すると別のネズミが言いました。
「それはどういうことだ?どうやったら、猫につかまる前に、あいつがやってきたことに気づけるんだろう?」
尋ねられたネズミは少し考えてから、こう言いました。
「それには鈴がいる」。
別のネズミがきょとんとして言いました。
「鈴?鈴って、何のために?」。
そのネズミは答えました。
「それを猫の首にかけるんだ。そうすれば、猫が歩くたびに、鈴が鳴って、あいつの存在を知らせてくれる。鈴の音が聞こえたら、猫が近くにいると分かるじゃないか。そうすれば、猫から逃げることができて、命が助かるよ」
ネズミたちは、彼の解決策はやってみる価値がある、と思いました。こうして、ネズミたちは次の作戦、どうやって鈴を手に入れたらよいかを考えました。あるネズミが言いました。「そういえば、この家の子ヤギの首に鈴がついているのを見たことがある。猫が寝ているすきに子ヤギの鈴を噛み切って、ここに持ってこよう」
みんなはこの意見に賛成し、首尾よく鈴を手に入れました。鈴に紐を通して、いよいよ、猫の首にかける準備が整ったのです。しかし、準備万端整ったものの、今度は、誰がそれを猫の首にかけるかという問題が持ち上がりました。このとき、年老いたネズミが言いました。
「この一風変わった計画を提案した者自身が、実行すれば良いのではないか。彼が猫の首に鈴をかければよろしい」
この計画を提案したネズミは、とてもとても、そんな危険だらけの仕事を引き受けるつもりはありませんでした。しかし、年老いたネズミの決定は絶対でした。みんなは同情を寄せながら、このネズミに紐と鈴を渡し、巣の出口まで見送りにきてくれました。
その後、猫の首に鈴をかけにいったネズミの姿を見かけた者はありません。誰も、猫の首にかけられたはずの鈴の音を聞いた者もいません。そののち、解決不可能な大きな問題が持ち上がったとき、人々はこう言うようになりました。
「さて、猫の首に鈴をかけに行くのは誰だろう?」