May 31, 2018 21:28 Asia/Tokyo
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    聖典コーラン

今回からは、コーラン第38章サード章を見ていくことにしましょう。

慈悲深く、慈愛あまねき、神の御名において

 

サード章は、メッカで下され、全部で88節あります。この章は、内容の点で、第37章のアッ・サーファート章と非常に似通っています。この章では、様々な事柄が述べられています。

 

この章ではまず、唯一神信仰と多神教崇拝との闘争、イスラムの預言者ムハンマドの使命、多神教徒たちの頑なな拒否が語られています。その後、9人の神の預言者の歴史が述べられていますが、中でも特に、ダーヴード、ソレイマーン、アイユーブの物語について詳しく語られています。彼らは、それぞれの形で神の試練を受け、高い地位を手にしました。また、最後の審判での不信心者たちの運命や、地獄での彼らの対立が述べられ、おしまいに、人間の創造、天使たちがアーダムにひれ伏し、悪魔がそれを拒否したことが語られ、人間は神の御前で尊厳を有しているため、悪魔に従わないようにとされています。

 

神の預言者ムハンマドが、その導きを明らかにしたとき、アブージャハルを含むクライシュ族の長老たちが、預言者のおじのアブーターリブの許に行き、こう言いました。

「アブーターリブよ、お前のおいは私たちには知性がないと言い、私たちの神々に反対している。私たちの若者を堕落させ、私たちの間に対立を生じさせた。もしそのような行いが、経済的な問題によるのなら、私たちが彼のために金を集め、彼をクライシュ族の中でも最も裕福な人間にしてやろう。彼を私たちの長にしてもいい」

 

そしてアブーターリブは、このメッセージを預言者ムハンマドに伝えました。しかし預言者ムハンマドは言いました。

 

「もし彼らが太陽を私の右手に、月を左手に置いたとしても、私はそれを望まない。だが、[そのような約束の代わりに、]一言、私に同意し、それによってアラブ人を統治してくれれば、アラブ人以外の人々も彼らの教えに従うだろう」

 

 

クライシュ族の長老たちは、このような預言者の言葉を聞くと、アブーターリブに言いました。「一言とは言わず、10の言葉を受け入れてやろう。お前が言う一言とは、一体どのようなものだ?」 預言者ムハンマドは、彼らに言いました。「アッラー以外に神はいないこと、私は神の預言者であることを証言することだ」 すると彼らは言いました。「私たちが360の神々を捨て、たった一つの神を求めるというのか?何と不思議なことを」 このとき、サード章の最初の数節が下されました。

 

「サード。忠告を持つコーランに誓って。だが不信心者たちは高慢で反抗的に敵対する。我々は何と多くの民を、彼ら以前に滅ぼしたことか。そして彼らは責め苦が下るときに叫び声を上げていたが、もはや逃れるのは不可能であった」

 

 

イスラムの預言者ムハンマドが、唯一神信仰の旗をメッカで掲げ、偶像崇拝に対して立ち上がったとき、偶像崇拝者たちは、なぜ彼らの中から忠告者が現れたのかと驚きました。彼らは預言者が人々の間から現れたという大きな利点を、彼らの弱点と見なしていました。彼らはそれ以上に大胆になり、「彼は嘘をつく魔術師だ」と言ったのです。預言者が人々に唯一神の信仰を呼びかけたとき、彼らはこう言いました。「彼はこれほど多くの神の代わりに、唯一の神を据えたのか? これは本当に奇妙なことだ」 彼らは、崇拝の対象の数が多ければ多いほど、自分たちの力も大きくなると考えていました。いずれにせよ、長老たちは、アブーターリブには彼らと預言者ムハンマドの間を取り持つのは無理だと考え、こう言いました。「あなた方の神々への信仰をやめず、それをしっかりと保持しなさい。これこそがあなたたちに求められていることである」

 

 

サード章で述べられている預言者の一人に、ダーヴードがいます。第17節を見てみましょう。

 

「彼らが言うことに耐え忍びなさい。そして、非常に罪を悔い改める力の持ち主であった我々の僕、ダーヴードのことを想い起しなさい」

 

あるとき、2人の敵対する人物が、ダーヴードのもとに調停を求めてやって来ました。そのうちの一人は、兄弟には99頭の羊がいるが、自分にはたった1頭しかいない。それなのに兄弟は、そのたった1頭さえ自分から奪おうとしていると言いました。ダーヴードは性急な判断を下し、この訴えを認めて言いました。「あなたの兄弟はそれによってあなたに圧制を行った」 その後、ダーヴードはそれが神からの試練であり、自分が大きな過ちを犯したことに気づきました。そこで神に赦しを求め、神も彼を赦しました。

 

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サード章は、ダーヴードの後、その息子のソレイマーンについて語っています。第35節は、ソレイマーンをめぐる出来事の後で、彼の神への祈りに触れています。

 

「彼は言った。『主よ、私を御赦しください。そして私の後の誰にも持つことのできないような統治体制を私におあたえください。間違いなくあなたは非常に寛容な方であられる』」 神はソレイマーンの求めを受け入れ、特別な利点と大きな恩恵を持つ統治体制を彼に与えました。また、彼に風を支配させ、こう言いました。「われわれは風を彼の支配下に置き、彼の命によってゆっくりと動き、彼が望むところへと行くようにした」

 

明らかに、大きな統治体制では、すぐに連絡を取れる手段が必要となります。神はその手段をソレイマーンに与えました。また神は、ソレイマーンに、反抗的な存在物に肯定的な活動をさせる恩恵を与えました。悪魔は反抗的な性質を持っているにも拘わらず、ソレイマーンに支配され、有益な道に起用されました。サード章の第37節には次のようにあります。

 

「また我々は、あらゆる悪魔の大工や潜水夫を彼に支配させた」

 

とはいえ、彼らの一団は、社会が彼らの妨害を免れることができるよう、足かせの中に留まる以外にありませんでした。コーランの節もあるように、神は悪魔の別の集団を、足かせの中で彼に支配させました。とはいえ、ソレイマーンに対する神の最大の恩恵は、彼の精神的な地位であり、神は彼のふさわしさによって彼に恩恵を与え、第40節で次のように語っています。

「また彼には我々のもとでの貴重な地位があり、その結末は良いものである」

 

サード章の第41節から44節では、人々がさまざまな問題を恐れず、神の恩恵への希望を忘れないようにするため、預言者アイユーブの波乱に満ちた人生が述べられています。預言者アイユーブは多くの恩恵を持ち、感謝する僕でしたが、悪魔はそのような服従に嫉妬しました。コーランには次のようにあります。

 

「我々の僕であるアイユーブを思い起こすがよい。彼は神に向かって、『悪魔が私を苦しめる』と叫んだ」

 

悪魔は神に対し、アイユーブの豊かな財産、耕作地や羊、子孫を消滅させるよう求めました。災害によって、まもなくそれらは消滅しましたが、アイユーブの感謝は、減るどころか増えていったのです。悪魔は今度は神に対し、アイユーブの体を支配し、病に倒れて痛みに苦しませるよう求めました。しかし、自身の創造主である神を偉大なものと考えていたアイユーブは、自分の病に対して、一言も不満を漏らすことはありませんでした。

 

こうした中、イスラエルの民の修道士たちがアイユーブに会いにやって来て、彼にこう言いました。「これほどの痛ましい責め苦を受けるとは、あなたは一体、どのような罪を犯したのか?」 アイユーブは今度も耐え忍びましたが、心は切り裂かれていました。そこで神に向かって自分の苦しみを述べました。アイユーブは神の試練を無事に乗り越えていたため、神は慈悲の扉を開き、彼が失った恩恵をひとつずつ、あるいはそれ以上に彼に与えました。こうして、忍耐と感謝の良い結末を得られるようにしたのです。神はアイユーブに対し、地面を踏みつけるよう命じました。すると、冷たくて体を洗うのにも気持ちがよく、飲み水にも適している泉が沸き出しました。

 

預言者アイユーブが健康を取り戻したとき、別の恩恵が取り戻されました。これについて、コーランはサード章の第43節で次のように語っています。

 

「我々は、慈悲のしるしとして、家族とそれに似たものを彼らとともに彼に与え、賢いものたちへの教訓にした」

 

 

こうして、神はアイユーブの家庭をそれまで以上に温かいものにし、より多くの子供を彼に授けました。アイユーブに残っていた唯一の問題は、妻に関しての誓いだけでした。アイユーブはある出来事を理由に妻に対して不快な思いを抱え、病の床にいた際、力を取り戻したら、彼女を100回鞭で打つと誓っていました。しかし、病気が良くなった後、献身的に看病してくれた彼女を赦しました。ところが、アイユーブは神に誓っていました。しかし神はその問題も解決し、第44節で、このように語りました。

 

「[我々は彼に言った。]一握りの草を手に持ち、それで妻をたたき、誓いを破ってはならない。我々は彼を忍耐強い者とした。なんとよい僕であることか。本当に彼は[神の元へと]帰る者であった」

(了)