預言者ムハンマドとナジュラーンの司教
今回は、イスラムの預言者ムハンマドとその一門の偉大さの物語をご紹介しましょう。
ナジュラーンの司教であったアブーハーレサは、教会で礼拝を行っていました。そのとき、使者がやって来て言いました。
「イスラムの預言者ムハンマドから書簡が届いています」
アブーハーレサは書簡を受け取り、それを開きました。中にはこのように書いてありました。
「イブラヒームとイスハークとヤアクーブの神の御名において。これは神の預言者のムハンマドからナジュラーンの司祭に宛てた手紙である。私は、イブラヒームとイスハークとヤアクーブの神を称賛し、あなたたちにも、僕ではなく神を崇拝するように勧める。そして、神の僕たちの支配から脱し、神の支配に入るよう呼びかける」
アブーハーレサは、深く考え込みました。それから、側近を呼び、言いました。
「お前は勇気と洞察力がある。ナジュラーンはヒジャーズで唯一、キリスト教徒が住む土地である。今、この書簡について思うことを言ってほしい」
側近は、書簡を読み終えた後、言いました。
「宗教に関する私の知識は十分ではありません。だから意見を述べることはできませんが、私たちはこれまで、宗教の指導者から、いつの日か、イスハークからイスマイールの子孫たちに預言者の地位が引き継がれると何度も聞いたことがありました。イスマイールの子孫であるそのムハンマドが、約束された預言者である可能性もあります。もっともよい方法は、ナジュラーンで最も賢い人々を選び出してメディナに派遣し、そこで実際にムハンマドに会わせ、彼が預言者としての使命を担うことになった理由を探ってみることです」
アブーハーレサは、会合を開きました。その後、アブーハーレサと2人の長老を先頭に、ナジュラーンの60人の学者がメディナに向けて出発しました。
ナジュラーンの代表者たちは、メディナに到着すると、預言者のモスクに向かいました。彼らが身につけていた絹の服、金の指輪、首から提げた十字架が、人々の注目を集めていました。彼らは預言者のもとに行きました。しかし、彼らの期待に反し、預言者の取った態度は冷ややかなものでした。
ナジュラーンの代表者の一人が、人々の中にある人物を見つけ、うれしそうに言いました。
「私は彼のことを知っています。彼はオスマーンです」
それから、彼のそばに近寄って言いました。
「あなたは、預言者が私たちを見て、なぜ機嫌を悪くされたのか、知っていますか?」
オスマーンは言いました。
「いいえ。でも、その理由をアリー・イブンターリブに尋ねてみたらよいでしょう」
彼らは共に、アリーのもとに行きました。アリーは言いました。
「着ている物を変えてみてください。そのような華やかな装いをやめた方がいいでしょう。そうすれば、預言者は、敬意を持って接してくれるはずです」
ナジュラーンの代表者たちは、華やかな装飾品を控え、慎み深い服装で、再び預言者のもとに行きました。預言者は彼らを称賛し、彼らの贈り物を一部だけ受け取ってから言いました。
「私はあなた方に、唯一神への信仰と神への服従を勧めます」
ナジュラーンの代表者たちは言いました。
「イスラムの意図が、唯一の神への信仰にあるのであれば、私たちはすでに、唯一神に信仰を寄せています」
預言者は言いました。
「イスラムは様々なしるしを持っています。でも、あなたたちの行いは、本当にイスラムを信じているものではない。あなたたちは、神に子がいると考え、豚の肉を食べているのに、どうして唯一の神を崇拝しているなどと言うことができるのか」
すると、ナジュラーンの代表団の若者の一人が言いました。「私たちはイーサーを神と呼んでいます。なぜなら彼は、死んだ者を蘇らせたからです。また病人を治し、泥から鳥を作ってそれを飛ばすことができます」
預言者は言いました。
「しかし、彼は神の僕であり、神から創造された存在である。神はその力によって、イーサーをマルヤムの胎内で育つようにされたのだ」
すると、ナジュラーンの代表者の中から、別の一人が立ち上がり、厳しい口調で言いました。
「イーサーの母、マルヤムは、誰とも結婚することなく、彼を産んだ。だから世界の神はイーサーの父である」
預言者は言いました。
「もし父がいないことが、神の子である証明になるのなら、預言者アーダムの方が、その地位により近いだろう。なぜならアーダムには父親も母親もいなかったからだ」
ナジュラーンの代表者たちは、何も答えられずに言いました。
「ではこうしよう。決まった時に互いに議論を交わしあい、神に対して、嘘を言っている者の死を求めよう」
そのとき、預言者の表情が変わり、啓示が下されたようでした。神は預言者ムハンマドにこのように語りました。
「誰でも、この問題について汝と議論する者に言え、『さあ、子供たち、女たち、兄弟たちを集め、謙虚に祈ろう。そして嘘を言う者に神の呪いを下そう』」
双方は、議論のためにメディナのはずれに集まる日にちを決めました。
荒野が広がっていました。ナジュラーンの代表者たちは、預言者を待っている間、話し合っていました。
「ムハンマドが軍勢を引き連れてやって来て、自分の力をひけらかしたら、彼は普通の人間であり、その導きに誠実ではないということだ。でも、もし子供たちなど、自分の愛する人々を連れてきたら、自分の最も大切な人々を死の危険に晒そうというのだから、彼は正しいということになる」
ナジュラーンの代表者たちがなおも話し合っていると、突然、預言者の光り輝く姿が現われました。預言者は、孫のホサインを胸に抱き、もう一方の手にはハサンを連れていました。また娘のファーティマとその夫のアリーも、預言者の後に続いていました。
ナジュラーンの司教は言いました。
「ここにいるのは、いつでも祈りを捧げ、非常に大きな山を大地から引き抜いて欲しいと神に求めれば、すぐにそれが叶ってしまう、そのような人々だ」
別の一人が言いました。
「その通りだ。私たちは、このような光と美徳が溢れている人物と議論すべきではない」
預言者が到着すると、アブーハーレサは近寄っていき言いました。
「私たちは毎年、決まった額を税金として納めたいと思います」
預言者は満足の意を示して言いました。
「そうであれば、イスラムの統治政権は、あなたたちの命と財産を守るだろう」
それから、彼らの間で契約が結ばれました。
この物語は、コーラン第3章アールイムラーン章イムラーン家の第62節に記されており、イスラムの預言者ムハンマドとその一門の偉大さを物語っています。