預言者サーレハとサムードの民
今回の物語は、イスラエルの民の反抗についてお話しましょう。
まだ朝日は完全に顔を出していません。涼しいそよ風が吹いています。男も女も子供も、皆が騒がしくしています。彼らは少し歩いた後、聖なる岩の傍らに集まりました。一人が言いました。
「なぜサーレハは来ないのだろうか?」
別の一人が言いました。
「きっと来るつもりはないのだろう。彼の言っていたことは偽りで、奇跡をもたらすことなどできないのに違いない」
男が嘲笑っていると、遠くの方から、神の預言者サーレハが、やって来るのが見えました。サーレハはゆっくりと、確かな足取りでこちらに向かってきます。サーレハの表情には、内面の善良さがにじみ出ています。サーレハは彼らのもとに着くと言いました。
「人々よ、唯一の神を崇拝するよう、あなたたちに求める。あなたたちには、彼の他に神はいない。神はあなたたちを創造し、地上を繁栄させるよう、あなたたちに求めている。だがあなたたちは、私を否定し、私に奇跡求めている。私はあなたたちと同じ人間に過ぎないが、私の神にとっては、どんなことも容易いこと」
そのとき、雷のような音が聞こえました。人々の視線が聖なる岩に注がれました。信じられないことに、岩が割れ、その中から大きなラクダが顔を出していました。ラクダはゆっくりと、サーレハの横に立ちました。そのラクダの子は、目を美しく輝かせながら、少し向こう側に移動しました。人々はサーレハとラクダの周りに集まりました。驚きで目を丸くしています。彼らの間からざわめきが起こりました。サーレハは静かにするように人々を制してから言いました。
「人々よ、今、このラクダが私の奇跡である。これによって、私はあなた方に最後通告を下した。覚えておくがよい。このラクダは神の命によって、あなた方のそばに留まり、自由に牧草地を歩かせることができる。このラクダの乳をたくさん飲みなさい。だが、このラクダに丸一日、カナートの水を飲ませ、その翌日に、あなた方がその水を使うようにと、神は定められている。このラクダが草を食んだり、飲んだりするのを妨げる者があれば、神は満足なさらないだろう」
それは非常に美しい光景でした。清らかな心を持つ人々がサーレハのもとにやって来て言いました。
「神の預言者よ、私たちはあなたに信仰を寄せ、神に向かって罪を悔い改めます」
しかし、常に口実を探し、頑なな心を持ち続けている人々は、乱暴な調子で言いました。
「彼に騙されてはならない。サーレハは魔術によって、あのようなことをしたのだ」
サムードの民は、栄えた文明を持っていました。大地に多くの宮殿、山の中には安全な家々を作り、泉を沸きださせて、ナツメヤシ園や耕作地を作りました。彼らの中の堕落から手を引こうとしなかった部族の人々が、集まって言いました。
「私たちは危うい立場に置かれている。奴隷たちが集団で、少しずつサーレハの例に加わりつつある」
別の一人が言いました。
「このラクダを殺してしまおう。そして四つの足を切り刻み、このラクダの悪から解放されるようにしよう。このラクダはサーレハとその仲間たちにとって神聖なものだから」
別の一人が言いました。
「それがいい。このラクダは私たちの牧草地を自由に歩き回っている。また一日は、カナートの水を占有している。まもなく私たちの家畜のための草はなくなってしまい、カナートの水も干上がってしまうだろう」
別の一人が言いました。
「しかし、誰が率先してラクダを殺すことができるだろう?」
別の一人が言いました。「誰でも自ら名乗り出た者には、何でも好きなものを報奨として与えることにしよう」
別の人が答えました。
「それよりいいものだ。私の美しい娘をその人物に与えよう」
そのとき、青い目をした、赤い髪の男が前に歩み出て言いました。
「私がその役目を引き受けよう」
それから微笑みを浮かべて言いました。
「ご存知の通り、私は残忍なことで知られている」
翌日、神の偉大さを示す奇跡であったメスのラクダが水を飲もうとしたとき、このラクダを狙っていた男が、その首に剣を刺しました。しかしラクダは倒れません。今度はラクダの胸を剣で突き刺しました。ラクダは悲鳴を上げ、身悶えしました。この男の仲間たち数人が、男に加勢するために近寄り、とうとうラクダを倒してしまいました。
サーレハは、悲しみに沈んでいました。サーレハが、ラクダに加えられた暴力に涙を流しているのか、それとも、神の責め苦が下ることになった、自分の民の運命を嘆いているのかは、誰にも分かりませんでした。サーレハは人々に向かって言いました。
「あなたたちの猶予は3日間だ。この3日間のうちに、自分たちの行いについて考え、その罪を悔い改め、神を信仰しなさい。神を信仰しない者には責め苦が下るだろう」
しかし、反対者たちは耳を傾けようとはしませんでした。彼らは互いに顔を見合わせて言いました。
「彼はいつも、私たちを怖がらせるが、責め苦など下ったことはない」
別の一人が言いました。
「そうだ。私たちは安全で強固な家の中に逃げることができる」
また別の一人は言いました。
「サーレハと彼の仲間たちも殺してしまった方がいいかもしれない」
こうして、彼らに与えられた猶予の3日間が終わりました。3日目、天から稲妻が落ち、サーレハの仲間たちは驚いて、急いで彼のもとにやって来て言いました。
「神の預言者よ、反対者たちは皆、自分の家の中で死んでいます。私たちは慈悲深い神に助けを求めます」 サーレハは彼らにゆっくりと言いました。「これが、彼らの不信心と反抗の結末である」
コーラン第51章ザーリヤート章まき散らすもの、第44節と45節には次のようにあります。
「サムードの民の運命には、教訓がある。『束の間の生を楽しめ』と言われたとき、彼らは神の命に背いた。それで、彼らが[驚いて]見ているうちに、稲妻が彼らを襲った」」
預言者サーレハの物語は、コーラン第11章フード章の第60節から先にも述べられています。