映画「ヘイトフルエイト」2
この時間も、前回に引き続き、2015年のクエンティン・タランティーノ監督の映画「ヘイトフルエイト」についてお話ししましょう。
まずご紹介するのは、ミニーの紳士服飾店の88分から始まるシーンです。
ジョン・ルースは、悪名高きマニックス略奪団の団長の息子、クリス・マニックス、賞金首のデイジー・ドメルグ、黒人の賞金稼ぎのマーキス・ウォーレンとともにミニーの紳士服飾店に到着しました。犯罪者集団のジョディ・ドミングレの4人のメンバー、つまり、デイジーの弟のジョディ、メキシコ人のボブ、イギリスなまりの英語を話すオズワルド・モブレー、カウボーイのジョー・ゲージがミニーの紳士服飾店に着きます。彼らは店の主人である黒人のミニーと他の6人をすでに殺害していました。グループのリーダーであるジョディは、デイジーの弟で、彼らの目的は、ルースの手からデイジーを解放することにあります。計画を自然に見せるために殺されなかった唯一の人物は、元南軍将軍の無口な老人である、サンディ・スミザーズでした。デイジーの弟は、店の地下に隠れています。
ウォーレンは、スミザーズにこう言います。「あなたの息子は、黒人を殺すために山の上に来ていました。その頃、私の首には5000ドルの賞金がかかっていたのです。戦争中に黒人の首にかけられる賞金として、5000ドルは本当に高かった。それで、彼らは山の上まで、黒人を探しにやって来ていたのです。しかし彼らは黒人を見つけることができなかった。唯一、見つけることができたのが、私でした。そして、生か死かの瀬戸際まできたとき、皆、忘れよう、お互いに自分の道を歩むのだ、と言いました。あなたの息子のチェスターが、そう言ったのです」
するとスミザーズは、お前は嘘つきだとののしります。ウォーレンは再び、「皆にそう言われたが、あなたの息子は死を直前にして、懇願した。そしてあなたの息子は、自分の命を助けてほしいと私に懇願してきた」と言います。それから、彼が誰の息子であるかを知り、少しいたぶってやることにしたと言います。
マニックスは、ウォーレンに向かって、その嘘つきの口を閉じろと言い、スミザーズには、ウォーレンの言うことなど信じなくていいと忠告します。しかし、ウォーレンはマニックスの言葉を気に留めずにさらに続けます。「あなたの息子を殺した日は本当に寒い日でした。寒いというのは、この土地の冬の寒さを言っているのではありません。それよりもさらに寒かった。あのような寒い日に、あなたの息子に銃を向け、裸で歩くように言いました。あなたの息子はそのような状態で2時間も歩き続け、とうとう地面に倒れてしまったのです」
スミザーズは、お前は私の息子のことなど知らない、と再び言います。マニックスは、そうだ、知るはずがないと同意します。しかしウォーレンはさらに続けます。「それからあなたの息子は、再び懇願し始め、毛布がほしいと言いました。でも毛布などありません。そこで、捕虜になった黒人が着ていた服があったのですが、それをあげないことに決めました」
ウォーレンは、老人に、今、息子を殺した黒人のことを無視することができるのかと挑発します。スミザーズは、侮辱されたことに怒りを感じ、ウォーレンが置いていた銃を彼に向けます。しかし、ウォーレンの方が反射神経がよく、スミザーズを殺してしまいます。
ウォーレンが、スミザーズの息子のチェスターを殺したときの様子を話すシーンで、ウォーレンは、スミザーズのことも、その息子と同じように侮辱します。そのため、すべてのことを詳細に話し、スミザーズの前に銃を置き、彼にさらに屈辱を感じさせようとします。このシーンは、黒人が白人に対して持っている根強い歴史的な嫌悪感や怒りが、黒人を代表するウォーレンの強い復讐心となって表れているように描かれています。
次にご紹介するのは、150分から始まる、ミニーの紳士服飾店でのシーンです。
ゲージが、ルースとモブレーを殺した後、ウォーレンは彼とその仲間たちがデイジーの共謀者であることを悟ります。地下に隠れていたデイジーの弟のジョディは、ウォーレンに大きな傷を負わせ、激しい殴り合いが始まります。その中で、ウォーレンとマニックス、デイジー以外の人々が殺されます。ウォーレンとマニックスも重傷を負っています。ウォーレンの銃には、デイジーを撃つための弾は残っていません。デイジーはその機会を見逃しません。
ウォーレンは、マニックスに向かって手を伸ばし、「マニックス、弾を7つくれ」と言います。マニックスはウォーレンを見て、腰にあった7つの弾を投げてから、デイジーに向かって言います。「さあ、続けてくれ。私たちもここで友人として聞こう。雪が解けたらここを出て、仲間に加わり、無事にメキシコに行くのか?」 デイジーは、血だらけの顔でそうだと言います。マニックスは、ここにいる死体の賞金を尋ねます。デイジーは、それぞれの賞金の額を伝えます。ウォーレンはマニックスに向かって、このような悪魔と取り引きをするのかと言い、彼を責めます。マニックスは、ウォーレンに向かって、取り引きをするのではなく、ただ、話をしているだけだと言い、落ち着くようになだめます。
それからジョディの遺体と5万ドルの賞金はどうなるのかと尋ねます。デイジーは、ジョディの遺体は自分たちで運ぶ、なぜなら彼には子供がいるから、と言います。マニックスは、もし自分がウォーレンを殺せば、友人になれるかと言います。デイジーもその通りだと言います。マニックスはウォーレンを見て、それからデイジーに、本当に悪魔のような人間だと言います。デイジーは、あなたは人生で最大の過ちを犯そうとしていると言い、あと数日で自分の仲間がここに来ることになっている。そうしたら、あなたはここで殺されると言います。
マニックスは、大量の出血で気を失い、突然、地面に倒れます。ウォーレンは恐ろしくなり、マニックスに目を覚ますように言います。デイジーはその機会を利用して、地面に落ちていた銃を拾おうとします。デイジーが銃を拾おうとしたとき、マニックスが意識を取り戻し、彼女に向かって銃を撃ちます。マニックスは、デイジーの企みを確信し、ウォーレンと共に、彼女を吊るすことにします。デイジーは死に、マニックスとウォーレンも死を待ちます。
ウォーレンは、リンカーンから個人的に手紙をもらったことがあると主張していました。この主張がうそであったことはミニーの紳士服飾店の中のシーンで明らかになります。映画は、マニックスがこの手紙を読み上げるシーンで終わります。その手紙の中で、リンカーンは、さまざまな人種が平和的に暮らせるように望んでいると語っています。
デイジー、マニックス、ウォーレンの死の場面で、カメラは血の海を映し続けます。音楽が、不信感を増幅させ、音の響きが厳しい寒さを伝えます。このシーンで、ウォーレンは黒人の代表であり、マニックスは白人の代表です。そして、デイジーは、その2つの人種の間に対立を生み出す代表であり、彼らの関係を、自分の利益になるように利用します。デイジーの血だらけの姿は、彼女の悪魔のような性質を物語っています。
映画ヘイトフルエイトは、アメリカの南北戦争の後、この社会には人種間の不信感や嫌悪感が広がっていたことを描こうとしています。この不信感は、すべての人の死や衰退につながります。この衰退の中で、通常に反し、この映画では、黒人が白人よりも賢く強い人間に描かれています。ウォーレンは他の人々よりも強くて賢く、たった一人で多くの白人を殺します。