イランの名声、世界的な栄誉
ソフラヴァルディー(8)
今回も、前回に引き続き、12世紀の神秘主義哲学者ソフラヴァルディー(仮)についてご紹介してまいりましょうましょう。
今回は彼の著作、『蟻の言葉』を見ていくことにしましょう。ソフラヴァルディーは哲学やイスラム神秘主義の拡大に重要な役割を果たし、イスラム哲学の重要な学派のひとつ、つまり照明哲学の創始者とされています。
ソフラヴァルディーが神秘主義哲学者で、イスラムの伝統哲学における照明哲学の創始者であり、1155年に当たるイスラム暦549年に、現在のテヘランの西にある都市、ザンジャーン近郊のソフラヴァルドという村に生まれ、西暦1191年にあたるイスラム暦587年に、アレッポの法学者たちの陰謀によって、アイユーブ朝のサラーフッディーンの指示で処刑された、ということについては、前回でもお話しました。
短い生涯における業績でありながら、大きな成果でもあるソフラヴァルディーの作品は、現存しています。ソフラヴァルディーの著作には、メッセージや寓話、秘密が含まれており、研究者によれば、ソフラヴァルディーの実際の姿を示しているということです。この種の著作は、美しく、深みのある秘密言葉で描かれており、ソフラヴァルディーの精神上の経験によって記されています。これまでは、秘密に導かれる傾向や寓話について説明し、モウラヴィー、ハーフェズなどのペルシャ語文学における偉人に対する、ソフラヴァルディーの語る秘密の影響についてお話し、彼の著作『大天使ジブラーイールの翼の羽音』をご紹介しました。
ソフラヴァルディーの作品のひとつ『蟻の言葉』は、これまで数回にわたって出版されています。最初に出版されたのは、オットー・スピーズとハタックという人物がこの作品を校正し、英語の翻訳とともに、そのほかの2つの作品とともに、神秘主義における3つの作品として出版しました。また、ペルシャ語版は1935年、アンリ・コルバンとポール・クラウスによるフランス語の翻訳とともに、雑誌『ジャーナル・アジアティーク』に掲載されました。また、セイエド・ホセイン・アラブ博士も校正を行い、出版しています。
『蟻の言葉』は、完全に神秘主義的な側面を有しています。ソフラヴァルディーはこの著作を友人の一人の要請により記しました。ソフラヴァルディーはこの作品のはじめに神の名と預言者への祝福をつづり、自身の信仰と信条を語っています。当時の宗教上の偏執と社会的な状況により、ソフラヴァルディーは自身の言葉を秘密を含んだ言葉で記しています。
この作品では、ソフラヴァルディーは蟻の姿になり、秘密や教示を含む言葉や、振舞い方について語り、多くの教えを与えます。忍耐強い蟻たちは、日々の糧を得るため砂漠や荒野に行き、困難や修行に耐えます。このような蟻は、しばしばしかるべき地位を獲得し、神のみ光を体現する人物となり、預言者ソレイマーン(ソロモン)に忠言し、彼を救うのです。
この『蟻の言葉』では、ソフラヴァルディーは、亀やこうもり、ふくろうなどの動物や昆虫、鳥の言葉による物語を記し、預言者ソレイマーンのもとに鳥たちが来たこと、彼が身を隠したことに対する叱責と詰問について記しています。また、神秘主義者の心になぞらえられる伝説の王、ケイホスロー王の世界を見ることのできる杯の話と、精霊たちの王と親しくなった人物の話はいずれも、特定の神秘主義的な結論が含まれています。
全体的に、この作品のテーマは精神性であり、物質的な執着から離れ、崇高な真実に近づくため、修行を経験すべきだとされています。ソフラヴァルディーはさまざまなたとえ話を用いて、物語の形式でこの内容を語っています。この作品は9章立てになっており、5章では、4つの説話が語られています。これらの章では、人間が持つ神なる性質の根本、頑固さによる真実の理解の制限、心の目が見えてない人物の導きと教えの無意味さ、人間が宗教的な原則を忘れてしまうこと、高次の世界であるケイホスローの杯に近づくための方法について語られています。
ソフラヴァルディーの寓話に神秘的な言葉が使われている重要な理由とは、修辞法などに加えて、弟子が精神的な魅力を感じることにあります。このような神秘の重要性とは、ソフラヴァルディーがそれらを用いる中で制限を感じることなく、その自身の類を見ない想像力でそれらを説明できたことにあります。このため、この神秘性とその意味の解明は、大変に困難な作業であり、それを理解する特定の基準は存在しません。最大限、この秘密から何かを発見するには、注意力と幅広い研究が必要です、一方、実際の意味や内容の誤解は、彼の意図する神秘主義哲学が不明瞭となる要因となるのです。
この『蟻の言葉』の特性の一つは、所々にペルシャ語やアラビア語による多くの詩の句が見られることです。ソフラヴァルディーのそのほかのペルシャ語の作品では、これほど多くの詩が含まれていません。たとえば、『大天使ジブラーイールの翼の羽音』では、一部の詩人の名前がその中で記されているものの、その中には一編の詩も存在しません。そのほかの『蟻の言葉』の特性は、コーランの章句、アラビア語の文章や、句などが記されていることです。この作品にアラビア語の文章や句が多く使用されていることは、彼の散文を価値ある重厚なものにしています。ソフラヴァルディーはこの作品を、自分のようなペルシャ語を使用する人々のために記しましたが、彼はアラビア語もよく知っていました。
『蟻の言葉』の重要性は、その散文にあるのではなく、むしろ、意図している神秘主義的な内容のために、寓話や詩による文学的方法を使っていることにあります。哲学的な神秘性は、比較的少なくなっています。一部の話は、ペルシャ語の散文作品、韻文作品に出てくる話と似ています。イランの文学研究者モジュタバーイー博士によると、『蟻の言葉』は、仏教説話のジャータカ物語に似ているということです。
この作品は数匹の蟻が露について語る物語から始まります。彼らは、この露が地から生まれるのか、それとも空気から生まれるのか、という問いを投げかけます。蟻は露が蒸発するとき、空気中に消えることから、空気によって生じるという結論に至ります。ソフラヴァルディーはこの結論として、すべてのものはその根本に戻るとき、光の源である神のもとにもどるとしています。
ソフラヴァルディーは、亀の物語でも、海で鳥を見かけた数匹の亀の話をとりあげます。彼らは、この鳥が水から生じるのか、それとも空気から生じるのかと問います。もし鳥が水を必要としないのであれば、水から生じたものではない、そして、それは水がなくても生存できるという結論に達します。哲学者は、かくされているものを明らかにしなければ、真理は見出せないと述べています。亀は、哲学者に対して、そこに存在する宝石はどのようにしてその場所を必要としない存在となるのかと問いかけます。哲学者はその答えを出さず、亀はその場を立ち去ります。
ソフラヴァルディーはこのたとえ話の中で、預言者ムハンマドの天界飛行と、重要な神秘主義的な経験について語っています。彼は覆い隠されている事柄を明らかにし、場所という存在から脱することは、神に近づくのに必要なことだとしています。亀もまた、この寓話では、精神的な道を歩むことのできない人物のたとえであり、実際には神秘主義の指導者である哲学者の言葉を理解できませんでした。ソフラヴァルディーの哲学の体系及びその哲学の秘密と、イランの古い伝説を知ること、彼の哲学的見解を知ることは、彼の作品を理解し、分析する上での鍵となります。
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