視点
国際人権団体HRWが、アフガンでの米軍犯罪の審理をICCへ要求
国際人権団体HRWヒューマンライツ・ウォッチが、ICC国際刑事裁判所に対し、アフガニスタンにおいて各勢力が行った戦争犯罪の調査・審理を請求するとともに、ICCへの制裁を示唆し脅迫している米国を、この調査対象から除外しないよう求めました。
ICCは昨年、アフガンでの戦争犯罪に関する調査は再開するものの、20年にわたるアフガン駐留中に米軍が行ってきた犯罪は調査対象にならないだろう、と表明していました。
オランダ・ハーグにあるICCは、アフガンでの戦争犯罪に関する一次調査を2006年に開始しており、2017年に当時のベンソーダ主任検察官が、アフガンでの米軍およびNATO北大西洋条約機構軍の作戦を含めた徹底的な調査の許可を出すよう求めています。
こうした中で複数の人権団体が、これらの調査において米軍の犯罪が優先される対象とならないことを、何度も批判してきました。
HRWも、米軍の犯罪を調査対象から外すというICCの決定を、米がICCに対する制裁行使を示唆したことによるものだと受け止め、アフガン国民に対する米軍の国際法違反を含む、全ての勢力の犯罪調査を要求しています。
HRWは、「当組織は、米軍、CIA米中央情報局の支援下にあったアフガン勢力、およびアフガンの政府軍や治安部隊による国際法違反の無数の事例、そして、彼らがこのような犯罪の責任追及から免れていることを証明してきた」と表明しました。
また、ICCが米国を調査から除外した理由をめぐっては、「米はトランプ前大統領の時代に、実施される可能性のあったアフガン関連の調査に対する報復措置を示唆してICCを脅迫し、当時のベンソーダ主任検察官および、ICCのほかの上級幹部1名を制裁対象とした」と指摘しています。
当時のトランプ米大統領は実際、この問題への反応として、アフガンでの米軍の戦争犯罪調査に関わっていた複数名のICC職員に対し渡航制限や経済制裁を行うよう、命令を出しています。
しかし、その後発足したバイデン現政権はこれを取り消しています。
そもそも、アメリカはICCの加盟国ではなく、ICC設立以来これを批判しており、「米国の国家主権」を脅かすという口実で、米国市民に関するICCの調査実施資格を正式に認めていません。
マイク・ポンペオ米前国務長官も、アメリカ市民に対する司法分野での措置の実施をもくろんで違法な努力をしているとして、ICCを非難していました。
アメリカは、アフガンでの米軍の犯罪捜査に関するICC調査への反対を正当化するため、現在のEUの礎を築いたとされるローマ条約に自らが加盟していないことを含めた、さまざまな口実を持ち出してきました。米国はこのような口実の1つとしてさらに、ICCの措置が国際法に合致していないことを挙げています。
ここで驚くべき点として指摘されるのは、ICCが戦争犯罪や人道に反する犯罪の問題を捜査・審理する国際的最高機関でありながら、アメリカがなぜ、アフガンでの米軍の戦争犯罪を捜査・審理する資格がICCにはない、と主張しているのかということです。
国際法を専門とするメフディー・ザーケリヤーン教授はICCの資格に触れ、「アフガンの状況へのICCの参入はいかなる点でも違法ではなく、またアメリカが言うように政治的なものでもなかった。それどころかこの機関の資格に基づけば、正義の実施における過程で行うべき事項にあたる」と述べています。
一方、米国が取ったこのような行動は、人権団体からの反対だけでなく、世界規模での否定的な反応に直面しました。2020年6月下旬には67 か国のグループが、ICCに対し米国が行った脅迫について共同声明を発表し、この国際司法機関への自分たちの支持を強調しています。
米国の横暴で違法なアプローチに対して国際社会が見せた姿勢は、米国が孤立し、さらには一方的かつ支配的な同国の行動が受け入れられないことを示しています。