視点;ミールターヘル解説員
ロシアの自国通貨使用に向けた新措置と、各国の米ドル依存度低下
ロシア政府が、自国の金融市場へ参入し通商を行うことのできるイラン、ブラジル、ベネズエラ、キューバなど31カ国の銀行や金融業者を承認し、これらの銀行・業者がミシュスティン露首相の署名した同文書に基づき、金融派生商品の市場にも参入できるとしました。
このリストには、アゼルバイジャン、アルメニア、ベラルーシ、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンといった旧ソ連諸国、またロシアとともにBRICS・新興経済国グループを形成するブラジル、インド、中国、南アフリカの4カ国、そしてセルビア、トルコ、イラン、カタール、パキスタン、アラブ首長国連邦、モロッコ、マレーシアなどの国々が含まれています。
ロシア政府によれば、今回の決定は今年7月に承認された新法の枠組みに含まれるものであり、 友好国・中立国諸通貨の直接交換メカニズムの効力を高めることを目的としています。
ロシアは現在、ウクライナ戦争を理由に西側諸国が課した制裁に対抗して、自国通貨で貿易を行う動きを加速させていますが、その一方でBRICS・新興経済国グループの主要メンバーとしても、ブラジル、インド、中国、南アフリカなどの他のメンバーとともに、国をまたぐ全ての取引において自国通貨の使用を追求しています。
BRICS諸国には、経済・通商取引での自国通貨使用や新しい通貨の創設を求める、多くの理由があります。最近の世界の金融問題やアメリカの侵略的外交政策によってこの件を検討するようになったBRICS諸国は、世界的な米ドルおよびユーロへの依存度を低下させながら、自分たちの経済的利益に向けて一歩を踏み出したいと考えています。
ロシアのプーチン大統領は今年7月末、新たな通貨秩序を持ったBRICS銀行の重要性を強調し、「米国が自国通貨のドルを武器にしているこの時代に、これまでに代わる金融機構を創設することは、難しいとはいえ必要なことである。現状、世界の金融状況や政治的武器としての米ドル使用で起きていることを考えてみれば、米ドルに代わり各国通貨を利用するのは、容易なことではない」と述べています。
さらに、BRICSはどこかの国に対抗する経済ブロックではなく、メンバー国が金融問題を含む相互利益のために協力する集まりであると強調しながら、「BRICS諸国は、自分たちの国の通貨による決済を増やしている最中である」と指摘しています。
プーチン大統領はまた、昨年10月の演説でも、「米国は、米ドルを武器として使うことで、国際金融準備機関の信用を落とすことになった。同国のイエレン財務長官も、「制裁が一部諸国の米ドル使用停止につながりうることを認めている」としていました。
米ドルは、依然として世界の金融準備に最も使われている通貨ですが、アメリカがこれを武器として使っていることにより、現在多くの諸国が、自国の金融準備を他の通貨に置き換えて多様化させる動きを加速させています。また、アメリカが他国への圧力や競合国・自国に従わない国への制裁や圧力行使に米ドルを利用していることも、金融・通商取引での各国通貨使用という現象を引き起こしています。
このような措置を取る国々の筆頭に挙げられるのは、中国およびロシアです。また、インド、ブラジル、マレーシア、トルコ、ベネズエラ、イランなども、同様の動きを進めています。さらにユーラシア経済連合も、加盟国がすべての金融・通商取引から米ドルを排除することで合意しています。
ロシアが今回このような流れに沿い、自国金融市場へ参入できる31カ国の銀行や金融業者を承認するという措置を取ったことは、国際貿易における各国通貨使用および米ドル依存度の引き下げへ向けた新たな一歩と言えるでしょう。