慈愛の預言者、ムハンマド(9)
イスラムの預言者ムハンマドは、預かり物に対して責任を果たし、持ち主に返すことをしっかりと守っていました。
預言者ムハンマドは、多神教徒や不信心者に対しても、そのような好ましい方針を守っていました。そのため、預言者に反対するメッカの人々は、彼が預言者であることが発表された後も、自分の大切なもの、貴重なものを預言者に預けていました。その際、彼らは、預言者がその財産を差し押さえたり、自分の教えのために費やしたりするのと、微塵も疑ったりはしませんでした。
預言者は、メディナに移住する前、後にシーア派初代イマームとなったアリーに対し、数日間メッカに留まり、預かったものを持ち主に返してほしいと頼みました。預かり物に対する責任を果たすことは預言者にとって非常に重要であり、最も厳しい状況に置かれたときでさえ、それを守っていました。預言者の預かり物に対する責任感の強さについては、つぎのような逸話があります。
ヘイバルの戦いで、イスラム教徒は深刻な食糧不足に陥っていました。空腹を癒すため、彼らは、イスラム教で食べない方がよいとされていた一部の動物の肉を食べていました。そのとき、ヘイバルのユダヤ教徒たちのために羊の群れを連れていた羊飼いが、預言者のもとにやってきて、イスラムの真理を教えてほしいと言いました。彼は最初の会合で、預言者の論理的な言葉を聞き、イスラムに信仰を寄せました。その後で、彼はこう言いました。「この羊たちは皆、ヘイバルのユダヤ教徒から預かっているものです。私と羊の持ち主の関係が絶たれた今、私はどうすればよいのでしょう?」 イスラムの預言者は、腹を空かせた何百人もの兵士の目の前で、はっきりとこう言いました。「私たちの教えでは、預かり物に対する裏切りは、最大の罪のひとつである。そのため、全ての羊を谷間で連れて行き、その持ち主に返しなさい」
若い羊飼いも、預言者の指示に従い、羊をその持ち主に返しました。