視点
米仏間の緊張緩和に向けたバイデン米大統領の努力
バイデン米大統領がマクロン仏大統領と談話会談を行った後、この両首脳は共同声明の中で、米英オーストラリアによる新たな安全保障協力の枠組み・AUKUSをめぐる対立の解消に向けた協議を継続していくことで見解が一致しましたことを発表しました。一方で、マクロン大統領は米駐在のフランス大使が米国に戻ることにも同意しています。
この決定がなされたのは、オーストラリアとの安全保障枠組みの発表前の対仏協議が、最近のフランスとの外交上の緊張緩和の障壁になる可能性があったことを、バイデン大統領が認めた後のことです。
豪州政府がフランス製潜水艦12隻の購入契約を破棄し、アメリカ産原潜8隻の購入に切り替えたことをめぐる、最近の米仏間の緊張発生後、フランス政府当局は前代未聞の形でアメリカの行動を非難しました。中でも、ルドリアン仏外相は、米英豪による今回の合意を、「背信行為」だとしています。フランスの視点から見て、バイデン大統領はこの行動により、トランプ前米大統領が固執していた「アメリカ第一主義」政策にそっての進路を進んでいることになります。
フランス政府は、アメリカのこの行動への抗議として、米ワシントンおよび豪キャンベラ駐在のフランス大使を本国に召還し、米英の政府関係者とフランス当局の間に予定されていた一連の会談を取りやめました。EUはフランスのこの立場表明を支持し、米英豪によるAUKUS協定の締結と対仏武器協定の破棄を、容認できないものだとしています。
EUの見解では、バイデン米政権はヨーロッパとの由来からのつながりを無視し、ヨーロッパをAUKUSに参加させることなく、中国への対抗を目的とした英語圏の国との協定締結に着手した、と見られています。この問題への反応として、EUはインド・太平洋地域での新戦略を発表し、事実上この地域でのある種の独立性を提起しました。
アメリカ人アナリストのElise Labott氏は、「バイデン大統領は、外交政策においてトランプ前大統領の残したやり方を継続している。その代表例が、フランスに対するバイデン大統領の背信行為、そしてオーストラリアとの契約締結であり、これはアメリカの旧来の同盟国の利益を蹂躙し、同盟国の信頼を激しく踏みにじった形となった」と述べています。
ヨーロッパ側からのこうした一連の否定的な反応は、アメリカにフランスに対する歩み寄りを促した形となり、これに関してバイデン政権の関係者は、表明の中でアメリカにとってのフランスの重要性を強調しました。ブリンケン国務長官は、「フランスは、インド・太平洋地域におけるアメリカの決定的な同盟国である」と表明しています。また、バイデン大統領も、マクロン大統領と折衝すべく全力を挙げてきており、22日水曜の米仏首脳による電話会談も実際、フランスに対するアメリカの謝罪だったといえます。
こうした中、特にフランスをはじめとしたヨーロッパ抜きでのAUKUS締結というバイデン政権の最近の行動は、アメリカがヨーロッパに関する自らの視点を根本的に変えたことを示しています。アメリカはかつて、安全保障の側面をはじめとしたヨーロッパに対する自らの責務履行を重視していましたが、今頃は「アメリカ第一主義」のスローガンにそって、ヨーロッパを手段として活用し、彼ら自身に一連の責務をゆだねていています。これに関しては、EU離脱後に特に二国間自由貿易協定をはじめとする対米関係の構築に多大な希望を託していたイギリスも、アメリカにそれほど歓迎されてはおらず、単にアメリカの約束で自らを慰める以外になくなっています。こうした中、ドイツをはじめとするヨーロッパの大国は今や、エネルギー分野や対外政策、安全保障面で自らの独立した方針を追求すべきだ、ということを認識しています。
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