イランの芸術
北部マーザンダラーン州の郷土音楽
それぞれの国が持つ音楽という資産は、その国の郷土音楽・歌謡の中に求めることができます。イランも同様で、十数世紀かけて人々が築いてきた歴史、文化、風俗習慣に由来する民俗音楽が存在します。
今日は、イラン北部マーザンダラーン州の郷土音楽の巨匠の一人であるエスハーギー氏を訪問しています。
同氏は、これまで60年以上にわたり音楽の分野で活動し、楽器の製作や演奏、郷土民謡の朗誦を行ってきました。
― マーザンダラーン州の郷土音楽について、簡単にご説明いただけますか?
エスハーギー氏:私達の地域には、様々な郷土音楽があります。その主題は、英雄伝、恋愛物語、宗教的物語、儀礼関連のほか、風刺なども存在し、多岐にわたります。
― マーザンダラーン州の郷土楽器には、どのようなものがありますか?
エスハーギー氏:バンジョーに似た形で立てて弾くキャマーンチェ、二本の弦を持つドタールといった弦楽器のほか、タンバリンに似た打楽器・ダーイェレがあります。さらに、ラレワと呼ばれる笛の一種もあります。
― ドタールは、ほぼイラン全国で郷土楽器となっていますね。
エスハーギー氏:そうですね。ほぼイラン全域で見られます。
例えば、イラン北東部・北ホラーサーン州では英雄伝の音楽にドタールが使われており、同地域の郷土音楽の多くも、ドタールで演奏されています。
ドタールは、朗誦と演奏が密接に結びついており、通常は、演奏しながら楽器を弾くという弾き語りのスタイルが取られます。
― マーザンダラーン地方の郷土民謡がどのように位置づけられているかについて、簡単に説明していただけますか?
エスハーギー氏:あらゆる民族は、自らのルーツを示す象徴的な音楽をそれぞれ持っているものですが、私たちマーザンダラーン民族でルーツを示す音楽として第一に挙げられるのは、「タバーニー・ハーニー」と呼ばれる、長い部分と短い部分が組み合わさった音楽です。
― 今披露してくださった弾き語りは、タバリーと呼ばれているんですね。
エスハーギー氏:そうです。これは、私たちの郷土音楽の指標となる唄です。
― 指標というのは、正確にはどういう意味でしょう?
エスハーギー氏:郷土音楽はどの地域のものでも、その地域特有の節や旋律が存在します。
たとえば、イラン西部コルデスターン州にはダシュトセターニーやコルマージーと呼ばれる旋律があります。
私たちのいるマーザンダラーン州の郷土音楽では、まずタバリーという歌唱を学び、そのあとで他の曲の演奏を学びます。タバリーというのは、マーザンダラーンの旧名・タバレスターンに由来します。
私たちの郷土音楽で扱われるテーマのひとつは、戦士たちの英雄伝です。
人々は彼らを敬愛していたことから、死後もその活躍を詩にして吟じていました。
私たちのような郷土音楽の演奏家は、尋ねた先のあちこちの村で詩を収集し、その詩に合わせて楽器を演奏してきたのです。
― ご自分の音楽を伝承していきたいと思われる方はいますか?
エスハーギー氏:はい。約10人ぐらいいて、彼らは幸い、とても才能にあふれています。
― マーザンダラーン州の音楽の立ち位置は、現在も維持されていますが、実際には、どこでどのような機会に演奏されるのでしょう?
地元の人々自身は郷土音楽への興味・関心を保っていて、郷土音楽は、夜に行われる集まりやパーティ―などで、よく演奏されています。
たとえば結婚式だと、最初のうちはリズミカルな音楽が主に流されますが、最後には、私たちのような郷土音楽の演奏家が地元の曲を奏でます。
人々は、自分たちの郷土音楽に慣れ親しんでいます。また、私たち演奏家自身も、彼らが強度音楽に慣れ親しみ好きになっていくよう、勤めています。