イスラム宗派大学
今回はイスラム宗派大学を紹介します。
イスラム宗派大学は、イスラム世界の各宗派を近づける思想に基づいた大学です。イスラムの宗派を近づける思想は、改革運動のひとつで、イスラムの原則的な教義に基づき、エジプトのこの思想の学院、ダーロルタグリーブの設立と共に立ち上がりました。ダーロルタグリーブは、イランの高位の聖職者がエジプトのアル・アズハル大学の聖職者たちの指示を受けて、1947年にエジプトのカイロに設立されました。この機関は、すぐにイスラム世界の高位の聖職者の協力と信頼を得て、各宗派の信者たちの連帯というプラスの影響を発揮しました。ダーロルタグリーブは創設者の死去とエジプトの政情の変化により、閉鎖されましたが、イランのイスラム革命後、最高指導者のハーメネイー師の指示により、1990年、同じ目的でイスラム宗派接近世界連盟がテヘランに設立されました。
この連盟の創設を受け、アル・アズハル大学の役割を受け継ぐ大学を作る必要性が生じました。そのためイスラム学問・知識高等教育機関が1992年に設立されました。この連盟がイスラム宗派大学と名称を変更し、正式に1995年、初めて学生を受け入れ、イスラム法学やイスラム宗派学など複数の学部により活動をスタートさせました。
現在、イスラム宗派大学は、イランの科学技術省の認可を得て、博士課程までの専門課程において国内外から学生を受け入れています。この大学は国際分野でも、会議を開催するなど活動を行っています。イスラム宗派大学は現在、国内外の影響力のある成功した大学のひとつとなっており、イスラム世界の大学連盟にも加盟しています。
イスラム宗派大学は、この間、女子部門とサナンダジ、バンダルアッバース、ザーヘダーンの分校の設立により、イスラム世界を統一しようとする精神を持った学生をイスラム世界に送り出してきました。その多くが現在も世界の大学で教鞭をとったり、イランの学術や文化の専門家、上級責任者となっており、一部もまた大学の重要な地位についています。
イスラム宗派大学の役割は、イスラム教徒間の敵対を取り除き、共に近づけ、統一を拡大し、イスラムの各宗派の協力と肯定的な下地を整えることだとされています。これにより、この大学は20年以上、シーア派やスンニー派、イラン人やその他の外国の学生を受け入れることで、イスラム教徒の統一に努める精神を持った専門家、とくに少数派の民族や宗派が住む地域で多くの影響力を持つ専門家を育成しています。
イスラム宗派大学の設立の目的は、自分の宗派のみならず、イスラムのほかの宗派の原則をも知り、イスラム教徒を連帯、統一させるイスラムの専門家、法学者を育てることです。宗教学校や大学で教鞭をとるための、イスラム法、コーラン学、イスラム史、ハディース学、神秘主義といった学問の研究者や教員の育成は、この大学の目的です。
現在、イスラム宗教大学には3つの学部が存在します。イスラム宗派法学部、コーラン・ハディース学部、そして宗教哲学部です。イスラム宗派法学部は学士、修士、博士、コーラン・ハディース学部は学士と修士、宗教哲学部は学士の課程で学生を受け入れています。
現在、イスラム宗派大学は、スンニ派教徒が暮らすザーヘダーン、バンダルアッバース、サナンダジに分校があります。この分校では、スンニー派のシャーフィイー派やハナフィー派がシーア派教徒と共に学んでいます。大学のメインキャンパスは、テヘランにあります。
イスラム宗派大学の最大の特徴のひとつに、国内外の様々な地域の専門知識を持った優れた教授陣の存在があります。テヘラン大学やイマームサーデグ大学といったイランの大学の宗教学専門の教授の多くがこの大学で教鞭をとっています。また、イランのアラヴィー情報大臣、イスラム世界問題担当のタスヒーリー最高指導者顧問、イラクやイエメンといった国々の宗教専門家もこの大学で教えています。
イスラム宗派大学のこの他の重要な特徴として、大学が学問の空間においてイスラムの宗派を近づける下地を整えていることがあります。これにより、各宗派の信者が互いの信条に対する正しい理解を得て、平和共存することを教えています。イスラム宗派大学の基本方針はこうした原則に基づいており、この方向でその教育課程が組まれています。この大学は各宗派の教授や専門家が学生に教えているイスラム世界で唯一の大学です。そして一部の授業もシーア派やスンニ派の教授を使用し、接近と比較という二つのアプローチによって行われています。
イスラム宗派大学は、各宗派を近づけ、連帯、平和共存させる上で、学術的、教育的な空間における先駆けであり、イスラム世界において同様の例はありません。この大学の特徴の一つはエジプトやチュニジア、レバノンのイスラム大学との継続的な関係や、学術協力、学生・教授陣の交換に向けたイラクやベルギーなどの大学との協定締結です。イスラム宗派大学はイスラム世界大学連盟にも加盟しています。
現在、イスラム宗派大学では、テヘラン、バンダルアッバース、ザーヘダーン、サナンダジの分校で男女合わせておよそ1300人の学生が学んでいます。イスラム法学、歴史、コーラン学、ハディース学の分野では最多の学生が学んでいます。さらに、これまで国内外のイスラム各宗派の3000人の学生がこの大学を卒業しました。
スンニー派のハナフィー派やシャフィイー派、シーア派のといったイスラムの様々な宗派の学生の存在に注目し、この大学の法学部は他の学部よりも人気があります。学術の点から、すべての学科や学部は国内外から教授陣を受け入れることで、高いレベルを有しています。
イスラム宗派大学は世界各地からも学生を受け入れていますが、新設のため、その数は多くありません。しかしこの2年、特別な努力が注がれ、外国人学生の最大限の誘致に力を入れています。これまでタイ、マレーシア、インドネシア、コモロ、コートジボワール、ブルキナファソ、ナイジェリア、ガーナ、イラク、アフガニスタンなど200人を超える外国人学生がこの大学で学び、卒業しています。
西アフリカ・ブルキナファソ出身のブカリさんは、イスラム宗派大学の修士課程で学んでいます。2008年からイランに滞在しているブカリさんは、この大学のレベルを高く評価し、「外国人の学生は、この大学で勉強することに多くの関心を持っている」と述べています。彼は宗教学に関心のある学生に対して、この大学で勉強を続けるよう提案しています。その理由として、イスラム宗派大学は数多くの専門分野と優れた経験のある教授陣を有した大きな大学であり、留学生に良好な施設を提供していることを挙げています。さらに、スンニ派、シーア派の学生は大学や寮で快適に過ごし、互いに意見交換を行っている、としています。また、「私たちはみんな仲良くなるべきです。この大学の目的も宗派を近づけることであり、私たちすべてが共通の宗教、キブラ・礼拝の方向、預言者を有している。イスラムのすべての宗派間の連帯と共感は神と預言者が求めるものだ」と述べています。