アルテミア
今回は、イラン北西部のオルミーイェ湖に生息する節足動物の一種、アルテミアをご紹介することにいたしましょう。
イラン北西部に横たわるオルミーイェ湖は、塩水湖としては世界で2番目に大きく、西アジアでは最大とされています。この湖には、アルテミアと呼ばれる雌雄同体の節足動物が生息しており、外見上はホウネンエビによく似ています。この種の水生動物については、世界でこれまでに7種類が確認されており、オルミーイェ湖に生息するアルテミアもその1つです。
アルテミアは、そのほかの生物にはない独自の特徴を有し、特にオルミーイェ湖にはこの湖独自のものが生息しています(ウィキペディアによると、世界のそのほかの塩水湖にも生息)。残念ながら近年、この稀少動物はオルミーイェ湖に様々な問題が生じていることから、絶滅の危機にさらされています。
1989年に初めて、オルミーイェ湖にアルテミアが生息していることが報告され、この時にはこの節足動物の代表種として、アルテミア・サーリナという学名がつけられました。しかし、1989年にはイラン人研究者のアーザリー・ターカーミー博士により、オルミーイェ湖に生息するアルテミアは、世界のほかの塩水湖には生息しない、この湖独自のものであることが判明しています。
オルミーイェ湖に生息するアルテミアは、世界でオルミーイェ湖にしか生息せず、この湖の原産であることから、ラテン語による学名もアルテミア・ウルミアナとされています。
オルミーイェ湖に生息するアルテミアは、正確には節足動物の中でも甲殻類に属し、非常に小さい生き物ですが、塩分の濃度の高い水域での生活に馴染んでいます。このような生息環境では、エサの獲得をめぐり争うライバルや天敵がいないことから、彼らは塩水域での生活に適応し、大量に発生しています。アルテミアは一般的に、オスとメスの区別のない雌雄同体のものと、オスとメスの区別のある雌雄異体のものがありますが、オルミーイェ湖に生息するアルテミアは、雌雄同体の部類に属します。
成熟した雌雄同体のアルテミアの体の長さは、およそ1センチほどで、左右に一対の複眼が突き出しており、細長い体の胸部には11対の脚と第1触角があります。また、頭部には第2触角があり、これはアルテミアのオスとメスを区別する目印となります。
また、アルテミアのオスは背中に1対の生殖器を持ち、またメスは胸部の11番目の脚の後ろ側に保育嚢を持っています。オルミーイェ湖に生息するアルテミアは卵胎生ですが、環境面でのストレスがない場合には、胎生生殖を行います。
アルテミアの卵は、国際的に価値あるものとされています。それは、アルテミアの卵の栄養価が高く、その成分全体の52%以上をたんぱく質、4%を脂肪分が占めているからです。さらに、アルテミアの卵には淡水域に生息する水生生物が必要とする、栄養分を全てまかなうのに十分なアミノ酸と脂肪酸が含まれています。
アルテミアは、冷凍或いは乾燥させたり、またそのままでも淡水域に生息するエビやカニ、各種の魚の養殖に適した、栄養価の高いえさとして利用できます。さらに、濃縮すれば塩水域に生息するエビやカニのえさとなります。また、アルテミアの卵は、いつでも必要な時にナウプリウスと呼ばれる幼生に孵化させて、養殖されているエビの幼生や魚の稚魚に、生きたえさとして与えることも可能です。
アルテミアは当初、水族館に飼育されている魚のえさとして利用されていました。しかし、この節足動物が数ある水生動物の中でも貴重な栄養源となることが判明したため、近年では食用として脚光を浴びてきつつあります。今日では、特にエビの養殖を初めとする水産業にとって、アルテミアは不可欠とされています。1988年から1992年にかけて、イランとベルギーの研究者が行った調査によれば、オルミーイェ湖で水揚げされるアルテミアの年間生産高は、数百万ドルにも上ります。
しかし、近年では気候の変動や降雨量の減少、地球の温暖化、水の不適切な使用などといった問題により、オルミーイェ湖の湖水中の塩分の濃度は1リットル当たり150ミリグラムから、340ミリグラムへと上昇しました。湖水の塩分の濃度が異常に高まったことから、オルミーイェ湖に生息する稀少動物の存続が脅かされ、絶滅の危機が生じています。
オルミーイェ湖の水量が減少し、塩分の濃度が上昇したことは、アルテミアの繁殖に悪影響を及ぼしました。その結果、オルミーイェ湖の水1リットル当たりのアルテミアの個体数は、かつては20匹から22匹だったものが、現在では1リットル当たりわずか1匹から2匹にまで落ち込んでいます。
幸いにも、この2年間はオルミーイェ湖とそこに生息する生物を復活させる対策本部が設置され、この湖に通じる主要な河川の浚渫や、ダムの水の放水といった措置により、オルミーイェ湖の水量はある程度増加し、再びアルテミアの元気な姿が見られるようになっています。このことは、オルミーイェ湖の復活によりこの稀少動物の生活のサイクルが再び出来上がっていることを示すものです。