映画「ヘイトフルエイト」
この時間は、2015年のクエンティン・タランティーノ監督の映画「ヘイトフルエイト」についてお話ししましょう。
映画「ヘイトフルエイト」は、クエンティン・タランティーノ監督による作品で、音楽はエンニオ・モリコーネが担当し、2015年にアメリカで公開されました。全編は168分です。
ヘイトフルエイトは、アメリカの南北戦争の数年後に起こった出来事を描いており、1861年から65年までの多くの出来事に触れています。
最初のシーンは、標的を生きたまま引き渡すことから、「首吊り人」と呼ばれている賞金稼ぎのジョン・ルースが、1万ドルの賞金がかけられたデイジー・ドメルグをレッドロックに連れて行くところから始まります。ルースがレッドロックに向かう途中で、黒人の賞金稼ぎのマーキス・ウォーレンと、クリス・マニックスが加わります。ウォーレンは、3つの遺体をレッドロックで引き渡さなければなりません。マニックスは、レッドロックの保安官として町に向かう途中だと主張します。しかし、猛吹雪のため、道中のミニーの紳士服飾店に停車します。
ルースたちがミニーの紳士服飾店に着くよりも前に、店には先客がいました。留守を任されたというメキシコ人のボブ、いかついカウボーイのジョー・ゲージ、巡回執行人のオズワルド・モブレー、そして無口な老人で元南軍のサンディ・スミザーズです。彼らは店主のミニーと他の6人を殺していました。彼らの目的は、ルースの手からデイジーを救うことでした。この中で、老人のサンディ・スミザーズだけが、自分のことを偽っていません。
ルースがミニーの紳士服飾店に到着したとき、ウォーレンとマニックスがルースと一緒にいるとは思っていなかった先客たちは、計画を変更します。黒人のウォーレンは、スミザーズの息子のチェスターに殺されそうになったため、彼をいたぶって殺害したことを明らかにします。
ウォーレンがスミザーズを撃ち、皆の注意がそちらに向いていた時、何者かがコーヒーに毒を入れ、ルースとOBが亡くなります。そこでストーリーはクライマックスを迎え、彼らが共謀していたことが明らかになります。黒人のウォーレンは、マニックスとともに、共謀者たちを銃でけん制し、すべての人を射殺します。そして彼らも深い傷を負います。デイジーは、ウォーレンとマニックスの仲を裂き、マニックスにウォーレンを殺害させようとしますが、うまくいきません。最終的にウォーレンとマニックスは、梁に通したロープでデイジーの首を吊ります。そして彼ら自身も、ひどい流血のために死を待ちます。
ヘイトフルエイトは、南北戦争の後の時代の物語です。この映画には多くの登場人物が出てきて、それぞれが南北戦争後の文化と関係しています。映画は、南北戦争というつらい時代を過ごしたアメリカの社会を表しています。
ヘイトフルエイトは、南北戦争後のアメリカ社会の様子を、人種の争いに焦点をあてながら攻撃しています。そこには、人種差別、威嚇、脅迫、不信があふれています。ミニーの紳士服飾店という小さな空間で繰り広げられる芝居は、黒人のジョーク、社会的、政治的な風刺、暴力や辛辣な言葉によって、人種の関係と戦争の時代から残る憎しみを明らかにしています。
この映画は、南北戦争後の人種差別を描くことにより、8人の人物が、誰も自分の本当の姿を明かさないまま、やり取りする様子を示しています。しかし、さまざまな人種の人々による互いの行動は、南北戦争前後の時代をテーマにしたほかの映画とは異なっています。
黒人の英雄であるウォーレンは、たった一人で白人に抵抗しており、他の映画に出てくる黒人とは異なる人格で示されています。ウォーレンは、ハリウッドが、黒人を英雄として示そうとする新しいタイプの登場人物です。この黒人の英雄は、白人に対する復讐心から、英雄に反する人物に変わります。ヘイトフルエイトは、2013年のそれでも夜は明けるや、大統領の執事の涙といった映画と同じように、黒人の歴史を振り返っています。
この歴史を振り返る、という作業は、公平なものではなく、復讐を果たすという方法によって行われています。この映画は、アメリカの南北戦争時代の人種による戦争を、黒人の白人に対する復讐という観点から描いています。ヘイトフルエイトは、さまざまな映画祭で高い評価を得、2015年のアカデミー賞で作曲賞を受賞しました。
ここからは、この映画の29分からのシーンを見てみましょう。
ウォーレンとマニックスが馬車に乗り、正面にルースとデイジーが座っています。走り出した馬車の中で、マニックスがウォーレンの過去を暴きます。そこで、ウォーレンの首に3万ドルの賞金がかけられていたことがあきらかになります。ルースは、なぜ彼の首に賞金がかけられたのかと尋ねます。ウォーレンは、北軍の騎兵隊で大きな功績を挙げたものの、南北戦争で捕虜になり、脱出するために他の捕虜たちを焼き殺す結果となってしまったため、卑怯者として除隊させられたと話します。ルースはウォーレンに、捕虜になったのに脱出したのかと尋ねます。マニックスは、彼は、それまで誰も考えつかなかったすごいことを考えたと言い、ウォーレンにそのことを話すよう促します。ウォーレンは微笑みながら、その場に火を放ったことを明らかにします。マニックスを除いた皆が笑います。
ウォーレンは、皆を焼き殺してしまえと思ったこと、南部の兵士たちを殺したために謝る必要があったのかと問いかけます。それからマニックスに向かって、お前は黒人を奴隷として使い続けるために南北戦争で戦ったのかと尋ね、自分は南部の白人たちを殺すため、つまり白人を見たらすぐに殺すために戦争に行ったのだと話します。
映画ヘイトフルエイトは、ノスタルジックな雰囲気を作り出すためのレンズを使って撮影が行われています。このテクニックは、砂漠などの広い場所での撮影に適しており、広く使用されています。
また、社会学的な観点から、先ほどお話したシーンについては、黒人は白人よりも多くの苦労を背負ってきたと言うことができます。これにより、十分な地位と力を有する黒人は、狂ったかのように白人を殺害するのです。
ウォーレンが白人を焼き殺したと話すシーンでは、黒人が白人よりも優れた存在として描かれています。黒人のウォーレンは非常に強く、捕虜となった際にそこに火をつけ、逃げ出すことができました。しかし、白人は彼を逮捕することができていません。彼の首には3万ドルもの懸賞がかけられているにも拘わらずです。言い換えれば、この映画では、黒人について描いた多くの映画とは異なり、白人が黒人よりも弱い存在に示されています。ウォーレンは、黒人の代表として、アメリカの人種差別の歴史の復讐を果たしているかのようです。
この映画では、ウォーレンは南北戦争の時にリンカーン大統領から手紙を受け取ったと嘘をつきます。ウォーレンは黒人として白人から侮辱されたため、お返しに彼らを侮辱しようとします。そのために、あらゆることを行い、アメリカの大統領から手紙をもらったなどという嘘をつくのです。
ウォーレンの復讐によって、ヘイトフルエイトは、現在、世論に強く非難されている時代について、アメリカに復讐しようとしていると捉えることができるでしょう。