光の彼方への旅立ち、アル・ゲサス章(3)
コーラン第28章 アル・ゲサス章 物語り 第9節~第13節
慈悲深く、慈愛あまねき、アッラーの御名において
第9節
「またフィルアウンの妻は言った。『[この生まれて間もない赤ん坊は]私とあなたの喜びです。彼を殺さないでください。私たちに利益をもたらすかもしれないし、養子にしてもいいでしょう』 しかし彼らは、[誰を自分たちのもとで育てることになったのかを]知らなかった」 (28:9)
يَا مُوسَى إِنَّهُ أَنَا اللَّهُ الْعَزِيزُ الْحَكِيمُ (9)
前回の番組でお話したように、フィルアウンとその妻がナイル川のほとりに座っていると、突然、箱が流れて来ました。フィルアウンは、その箱を拾い上げるよう命じました。彼らが箱を開けてみると、中には生まれたばかりの赤ん坊がいました。フィルアウンの命に従い、その男の子はイスラエルの民であったため、殺されるはずでした。そのため兵士たちがそれを実行しようと近づくと、フィルアウンの妻がフィルアウンに向かってこう言いました。「どのような理由で、この子を殺そうというのでしょう? この子は私たちの家族への恩恵になるかもしれません。私たちには子供がいないので、彼を養子にし、自分の子のように育てて、将来、あなたとその一族の王座を継がせることができるでしょう」
フィルアウンの妻の愛情に溢れた言葉により、フィルアウンはその子を殺すのをやめ、宮殿に保護するように命じました。実際、彼らは神の定めた運命を知らなかったのです。神は、フィルアウンに、将来敵となる子供の命を守らせ、イスラエルの民の間に生まれた男の子を殺害するという陰謀を退けました。
第9節の教え
• 一人の女性によって、一つの共同体の運命や歴史が変わることがあります。フィルアウンの妻は、ムーサーが殺されるのを防ぐことで、イスラエルの民をフィルアウンの手から救い、歴史を変えさせました。
• 人々の心は神の手の中にあります。もし神が望めば、最も頑なな心も融和なものとなります。頑ななフィルアウンでさえ、イスラエルの民の男の子を殺せと命じていたにも拘わらず、その子ムーサーに対して温和な態度を見せ、その子の保護を引き受けました。
第10節
「ムーサーの母の心は空になった。もし我々が、彼女の心を強いものにし、信仰を寄せた者の一人にしていなかったら、それを明らかにしてしまうところであった。」 (28:10)
وَأَلْقِ عَصَاكَ فَلَمَّا رَآَهَا تَهْتَزُّ كَأَنَّهَا جَانٌّ وَلَّى مُدْبِرًا وَلَمْ يُعَقِّبْ يَا مُوسَى لَا تَخَفْ إِنِّي لَا يَخَافُ لَدَيَّ الْمُرْسَلُونَ (10)
第 11節
「また彼の姉に、『彼を追いなさい』と言った。それで彼女は、彼らに気づかれないように、遠くから彼を見守っていた」 (28:11)
إِلَّا مَنْ ظَلَمَ ثُمَّ بَدَّلَ حُسْنًا بَعْدَ سُوءٍ فَإِنِّي غَفُورٌ رَحِيمٌ (11)
ムーサーの母親は、生まれたばかりの子供をナイル川に委ねてしまった後、悲嘆に暮れ、不安に駆られました。もう少しでその箱を拾い上げ、自分の子を救いに行こうとしてしまいそうでした。しかし、生まれた子供を箱の中に入れてナイル川に委ねるよう母親に伝えていた神は、彼女の心を強いものにし、子供は必ず彼女のもとに帰ってくるという神の約束を信じさせて、彼女は落ち着きを取り戻したのでした。そのため、母親は自分が動くのではなく、ムーサーの姉に、遠くからその箱を見守らせ、その箱がどこに行くのか、その後、どのようなことが起こるのかを確認させることにしました。誰かがその箱を拾うのか、それともそのまま流され続けるのかを、ムーサーの姉に確かめさせたのです。
ムーサーの姉も、その役目を立派につとめ、フィルアウンの統治体制の役人の目を逃れ、その箱の後を追いました。そして箱が川から拾い上げられたときも、彼女の姿は役人に見つかりませんでした。もし見つかっていたら、彼女が箱を追いかけていたことが明らかになり、彼女とその子供の関係がばれてしまっていたことでしょう。
第10節 ~ 第11節の教え
• 秘密を守ることは、信仰を持つ人々の特徴であり、秘密を漏らすことは、信仰の弱さのしるしです。特に、宗教の敵は、神の道において戦う人々の秘密を明らかにすることで、彼らを倒そうとします。
• 心の落ち着きや平静は、神とその約束を信じることによって得られます。
• 神に頼るということは、さまざまな問題について何の行動も起こさなかったり、何も考えない、ということではありません。ムーサーの母親は、神を頼りにしましたが、その姉に事の成り行きを見守らせました。
第12節
「我々はあらかじめ乳母の[乳]をムーサーに禁じた。そこで[ムーサーの姉は]言った。『あなた方に、彼の保護を引き受け、彼に善を尽くすような家族をご紹介しましょうか? 」(28:12)
وَأَدْخِلْ يَدَكَ فِي جَيْبِكَ تَخْرُجْ بَيْضَاءَ مِنْ غَيْرِ سُوءٍ فِي تِسْعِ آَيَاتٍ إِلَى فِرْعَوْنَ وَقَوْمِهِ إِنَّهُمْ كَانُوا قَوْمًا فَاسِقِينَ (12)
第13節
「それから我々は、彼を母親のもとに戻し、彼女の目が輝きを取り戻し、悲しみに暮れないようにした。また、神の約束が真理であることを知らせた。だが彼らの多くは知らないのである」 (28 :13)
فَرَدَدْنَاهُ إِلَى أُمِّهِ کَيْ تَقَرَّ عَيْنُهَا وَ لاَ تَحْزَنَ وَ لِتَعْلَمَ أَنَّ وَعْدَ اللَّهِ حَقٌّ وَ لٰکِنَّ أَکْثَرَهُمْ لاَ يَعْلَمُونَ (13)
生まれたばかりの赤ん坊は、少しの間でも母親から離れると、空腹やのどの渇きを覚え、泣き声を上げます。フィルアウンは、その子のために乳母を捜すよう命じました。しかし、神の意志により、腹をすかせた赤ん坊は、いかなる乳母の乳も受け入れませんでした。フィルアウンの役人たちは疲れ果て、その子をどう扱ってよいのか分からなくなりました。ちょうどその時、ムーサーの姉は、フィルアウンの役人に疑われないよう、母親を乳母として紹介しました。その彼女は非常に愛情に深く、その子の世話を十分に見ることができると言ったのです。役人たちは仕方なく、その提案を受け入れ、何も知らずに赤ん坊を母親の胸に預けました。すると、その子は泣き止みました。役人たちは、自分たちの役目を果たしたことを喜びました。
第12節 ~ 第13節の教え
• 敵に対しては賢くなければなりません。敵に気づかれないよう、自分の計画を進めましょう。ムーサーの姉も、母親の名前を出すことなく、その子を母親のもとに導きました。
• 現世と来世での神の約束を信じましょう。神の行いを、制限のある物質的な基準で図るべきではありません。
• 子供は母親の精神的な安定の源です。子供を産むことを避け、子供などいない方が楽でよいと考える母親は、実際、子供を持つという喜びを自分の手から奪っています。