アルバインと現代世界
(last modified Tue, 05 Sep 2023 09:10:47 GMT )
9月 05, 2023 18:10 Asia/Tokyo
  • アルバイン
    アルバイン

アルバイン(アラビア語で数字の40の意、シーア派3代目イマームホサインの殉教40日忌)は、様々な成果や役割を有する1つの行動です。現代世界において、なぜアルバインのような巡礼がこれほど魅力的で効果のあるものになるのでしょうか?

ここ数十年、私たちの時代の人類は、「アルバインの巡礼」と呼ばれる現象の見直しに直面してきました。もっとも、アルバインは非常に長い歴史を有しています。イマーム・ホサインと彼の忠実な教友たちの殉教から40日目を記念するこの行事は、実に数百年前に遡ります。しかし、現代世界におけるこの儀式の壮観さや威信は非常に驚くべきものです。

 

以前は、アルバイン巡礼をする個人や集団の数に非常に少ないものでした。しかし、メディアの報道によれば、イラクの聖地ナジャフとカルバラには今このシーズンに約3000万人が参集しているということです。

西側のプロパガンダ機関はこの大規模な群衆の参集を隠そうとしていますが、特に若者をはじめとする人々がアルバインに魅せられ、それが彼らの間に浸透する現象を阻止することはできていません。

 

さて、ここで次のような疑問が浮かんでくると思われます。それは、なぜ現代世界において、アルバインのような巡礼行事がこれほど魅力的で効力を発揮するものになっているのだろうか、というものです。

 

私たちの時代は人間中心的で、人間が自然界を支配する時代です。しかし、それは同時に、多くの未知なるものや解明されていないものを究明したにもかかわらず、人類は混乱と驚愕の渦中であるがままに放置されている時代でもあります。

 

ドイツの著名な哲学者マルティン・ハイデッガーは「私たちは暗黒の時代に入り、神々が逃亡しただけでなく、歴史とこの世界の運命において神の輝きと光が消え去った」と記しました。彼の解釈では、私たちは自分たちの過失にさえ気づいていません。人類はこれまで長年にわたり、自らにとって最も重要で主要な基盤を忘れ、自らの忘却にさえ気づいていないのです。

 

現代世界の人間は科学面でのプライドを持ち、最新鋭の科学技術に騙され、家族や他者からの乖離や孤立、薄情に慣らされてしまっています。こうした自己中心性により、現代人の間では他者や社会との関係は深刻に損なわれてきているのです。

このような時代においてこそ、アルバインに因んだ巡礼やその巡礼者の行列は、単なる個人的な信仰面での行動や社会的使命を超越し、現代世界の世俗的な仕組みを打破して神聖な文明を築く源流となるのです。

 

宗教学者のガンバリー師は次のように述べています:「現代世界は人間同士、あるいは人間と文明人の関係を、学習から社会サービスの提供、さらには社会・政治的制度を通じたあらゆる経済的活動、さらには政治的活動に至るまで、人間と制度・機関の関係へと変化させた。現代世界の特徴は、すべての人が銀行、保険、大学と別々につながっていることである。このような状況に、人間同士の関係を整理・整除するルートが開かれると、人々は1つの同じ街や宗教、文化を持つ人々のようになり、相互にサービスを受け取り合うことになる。相互に奉仕し学びあい、相互間の富と信仰を高め、さらには互助により自らの衣食住をも回復させる。それはあたかも、都市化と疎外という地獄から、親密さと親密な親族関係が存在する楽園へと開かれたルートのようなものだ」

 

実際、徒歩でイラクの聖地に向かうアルバイン巡礼者の行列は、現代世界に新しいスタイルとユニークな生き方を呼び起こしています。そしてその中では、優しさや情愛、そしてイスラムの預言者一門の考え方に基づいた集団生活が波紋を広げているのです。

近年、アルバインは、ナジャフからカルバラまでという厳選された区域の中で、人々が数日間ユートピアでの生活を味わうという、現代の物質世界から乖離した別の空間を生み出していると言えます。

この徒歩行列ではまず、物質的なものへの関心が薄れ、私たちが常に探し求めている金銭や物的資産の価値が重視されなくなります。言い換えれば、この繁栄と便利さの世紀において、利潤や利益を追い求めることなく、巡礼者はカルバラで囚われの身となった人々に思いをはせ、徒歩で、しかも時には裸足で殉教者の聖地を目指します。

この時にはもはや誰も、自らのその日に必要な水やパン、明日の糧のことなどは眼中にありません。これらの宗教上の賓客らはホストの純粋さと情愛の香りの漂う、色とりどりで清純な宴の場への招待にあずかるのです。イマーム・ホサインにまみえるアルバインへの巡礼では虚栄心、傲慢、利己主義、その他すべての醜いものは意味をなさず、人間の良い特質はすべて客観的なものとして具現します。

アルバインは、いうなれば現代世界とそのしがらみからの解放であり、一神教に基づく文明の経験と新しい人間の出現というべきでものあり、またアルバインの最も重要な物的・精神的資本は普遍的な信頼です。この儀式では、誰もが相互信頼に努めます。この信頼こそは社会的資本にとって重要な原則であり、他の社会にとってのモデルになりうるものです。

今年も、数百万人もの人々が静かに、しかし権威をもって真実の足がかりを踏み出し、今日カルバラで一堂に会し大群衆を形成し、真実と虚偽の違い、そして虚偽の中から光を認識し、虚偽とその圧制に反対する大運動を開始しました。

そして彼らは、自らの導師なるイマーム・ホサインのように歴史の中で永遠に誇り高くいられるよう、自分たちの命と血を犠牲にしても虚偽やその不当な要求の強制に立ち向かうと宣言しようとしています。

 

彼らはまたイマームと同じように、自分も神の宗教のしるしを明らかにし、その光の中で平和と安全を広めたいと考えています。これこそはまさに、イマーム・ホサインの目的でした。この偉人は次のように叫びました;「おお、神よ! 我らについて言われていることは、権力を争って世俗的な財物を獲得することではないことをそなたはご存知であられる。我らの目指すものは、そなたの宗教のしるしを元の場所に戻し、そなたの国を改革して、そなたのしもべたちのうち抑圧されている人々が安全を守られ満足し、彼らの義務とあなたの宗教の伝統と秩序が順守されることである」

 

このように、アルバインにおいて、人は人と人との関係を形作る新しい契約を形成します。彼らは奉仕・貢献を通じて愛と友情の雰囲気を作り出し、先を争って奉仕し、この美しい特質を他の人々の間にも広めるのです。中でも目立っているのは若者です。彼らは家を出た瞬間から、成長の主な障害となり創造主なる神への私達の服従を妨げるいくつかの倫理的な障壁から解放されることを決意するのです。

 

アルバイン行列の壮大な群衆に加わることは、今日の世界における私たちの内面的かつ精神的なニーズに対する一種の答えといえます。したがって、それは人を引き付ける魅力的な行為であり、特に若者をはじめとする万人に歓迎されます。この道に参加する若者たちは、アルバインの精神的・内面的側面に注目しており、自分たちが他者とともに偉大な政治・社会的活動を行っていることを認識しています。そして、形成されるこの感覚という点で、この道に参加する若者全員が、この巨大な宗教儀式では、人種、言語や宗教は違えど、イマーム・ホサインの巡礼者である人々と宗教を共有しています。

 

そして、彼らは人間関係と良い感情を得て、その良い感情を家族や大学、その他の場所に伝え、新しい計画と新しい関係を築きます。こうした関係はもはや人間と組織、機械、あるいは人間にとって異質ないわゆるさまざまな立場や企業との関係ではなく、人間同士の関係にさらに近くなります。

 

アルバインの巡礼者たちは友愛を持って世界に尊厳と自由の文化を紹介するのであり、この巡礼から戻った後は美しい人間性を身につけており、平和と友情を教えることになります。それは、彼らのイマームが「美しい道徳的特質の獲得に努め、これらの精神的資本の獲得に急げ」と命じたことによるものなのです。

 


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