8月 12, 2023 15:40 Asia/Tokyo
  • 『バービー』と『オッペンハイマー』、原爆とピンク爆弾の対決
    『バービー』と『オッペンハイマー』、原爆とピンク爆弾の対決

「バーベンハイマー」というキーワードで表される社会現象は、『バービー』と『オッペンハイマー』の2本の米映画が世界各地で同時上映されたことから始まり、メディアやバーチャル空間をしばらくの間、多くの議論や憶測で沸かることになりました。

アメリカの大規模なメディア工作により、世界中の映画館で2023年7 月 21日に同時に上映された『バービー』と『オッペンハイマー』は、それぞれ全く違ったストーリーでありながら、固唾をのんで見守るようなしのぎを削ることになりました。

 

まずは、クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』がどのような映画であるかを見ていきましょう。

これは、アメリカの物理学者ジュリアス・ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた映画です。第二次世界大戦中に米ロスアラモス研究所の所長を務めたこの人物は、同世界大戦における最初の核兵器の製造につながったマンハッタン計画で重要な役割を果たしたことから、「核兵器の父」の異名をとりました。

 この映画に出演している顔ぶれはキリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ケネス・ブラナー、ジェイソン・クラークなどの俳優です。

 

この映画の物語は、レスリー・グローヴスという名前のアメリカの役人がロバート・オッペンハイマーという名の科学者に、米マンハッタンでの大規模な秘密プロジェクトに取り組むよう依頼するところから始まります。

『アメリカのプロメテウス: J. ロバート・オッペンハイマーの勝利と悲劇』は、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによって書かれた本のタイトルですが、ノーランはこれを翻案して映画を制作しました。しかし、同監督が第二次世界大戦とオッペンハイマーのキャラクターとして提示したものは、現実とはかけ離れています。ノーラン監督は、心中に散らばり矛盾したイメージを一つにまとめることによって、原爆の父を英雄に仕立て上げようとしています。その一方で、自らの発明や原子爆弾の使用について何度も遺憾の意を示しているとはいえ、史上最悪の兵器の製造者を決して英雄と見なすことはできません。

 

ノーラン監督の映画は、第二次世界大戦末期に起こった歴史ドラマの一部を描いています。当時は、アメリカ人が原子爆弾の製造においてナチスとソ連を追い越し打ち負かそうとしていた時期でした。それはまた、米国が自国の致命的な兵器が正しく適切に機能し、適切な折に自国民を大量殺戮し身体障碍者とせしめることを確信したいだけのために、そしてソ連にその力を誇示するために、日本の広島と長崎の都市を原爆で攻撃し、数十万人もの無実の民間人を火中で焼き殺したのです。

 

したがって、映画『オッペンハイマー』の物語は決して英雄伝や壮大な出来事ではなく、また数時間にもわたる高度な音響効果や視覚効果が駆使され、さらにはキリアン・マーフィーのような人気俳優がオッペンハイマーを演じたとしても、この作品を人間的で倫理的な傑作にすることはできません。 ノーラン監督は、多くの矛盾と複雑さと抱き合わせの、不透明で散発的なイメージを提示することによって、大量破壊兵器を設計した男を称賛する映画のストーリーを導こうと試み、逆説的なアプローチで自らの映画作品を、政治的なメッセージの形成と結び付けたのです。

 

歴史的悲劇を描いたノーラン監督の3時間の物語には、多くの紆余曲折があります。彼は、ロバート・オッペンハイマーが水素兵器産業の拡大に反対していることを示すことで、史上最悪の兵器の製造者であるこの人物を無罪にしようとしている一方、原爆使用の中で一般人がこの科学者の発明した爆弾の犠牲になったことを理由に、当時のアメリカ政府がこの人物を法的に裁くことは正当だとしています。

 

この映画がアメリカの政治を批判的に見ていることは無視できませんが、明らかなのは、ノーラン監督がアメリカの原爆投下後に広島と長崎に引き起こされた破壊の程度を描ききれていないことです。日本の批評家は、広島と長崎が受けた破壊の規模は映画『オッペンハイマー』には示されていないと考えています。

 

映画「バービー」のマーゴット・ロビーと映画「オッペンハイマー」のキリアン・マーフィー

 

 

では、『オッペンハイマー』と『バービー』の批評の続きとして、今年のピンク現象であるグレタ・ガーウィグ監督の作品『バービー』に目を向けてみましょう。

 

この映画は、バービーたちの都市に住むものの、他の友達とは違うバービー人形の物語です。完璧ではないという理由で町から追い出された彼女は、幸せの兆しを見つけられるかもしれないと考え、人間の世界へ行くことを決意する。この作品に出演しているのはマーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、ケイト・マッキノン、アレクサンドラ・シップといった俳優たちです。

バービーの元々の構想はソニー社によって始められました。実際、ソニーは2014年からバービー映画の制作を計画しており、まず、ジェニー・ビックスが脚本を書きました。その後、このタスクはディアブロ・コーディに委ねられ、主要な役割はエイミー・シューマーに与えられました。最終的にシューマーはこの役を辞任し、アン・ハサウェイが後任となっています。ここでも当初、オリヴィア・ミルチが正式に脚本家としての業務を正式に開始しました。しかし2019年、グレタ・ガーウィグと夫のノア・バームバックがバービー映画の脚本を書いたとのニュースが報じられました。2021年7月、グレタ・ガーウィグが脚本に加えてバービー映画の監督も務めたことが明らかになっています。

『バービー』は、公開時にベトナムと英国で問題に直面しました。ベトナム当局は自国でのこの映画の上映を許可しておらず、英国も子供が一人で『バービー』を見ることを禁止しました。

映画のある一コマには、南シナ海における中国の領有権の境界を示す9つの破線「「九段線」が描かれた地図が示されていますが、ベトナムはこれを主権侵害だとし、この地域は自国に帰属すると主張しています。ベトナム映画局のヴィ・キエン・タン局長は、ベトナムにおける『バービー』の禁止について、「この禁止決定は、国立映画評価評議会によって下された。このような画像は、以前にもベトナムでのいくつかの映画やシリーズもののテレビ番組の上映で問題を引き起こした」と語っています。

ドリームワークスのアニメーション『メイビー』は、この理由により2019年に上映禁止となり、昨年はマーク・ウォールバーグとアントニオ・バンデラス主演によるソニーの『アンチャーテッド』も同じ運命を辿ることとなりました。そして、この映画は結局、公開から1週間で映画館での上映が中止されています。また2020年には、『肩に頭を乗せて』シリーズと『マダム・セクレタリー』シリーズから地図が含まれるシーンが削除されました。そして最終的に2021年には、Netflixのオーストラリアのスパイドラマ『Pine Gap』がベトナム市場から撤退しました。

 

また、英国映画の年齢区分・制限を担当する英国映画分類委員会は、危険な暴力シーンがあるとして、12歳未満の児童に対し保護者の同伴なしでのこの映画の鑑賞を禁止すると発表しました。

 

一般公開当初の『バービー』のもう一つの課題は、韓国国民に歓迎されなかったことです。

韓国の女性権利活動家ハン・シム氏は、この映画のテーマは映画ファンを失望させる可能性があると語っており、この点について「 『バービー』は、フェミニスト的な揶揄を盛り込んだ女性中心の映画が、韓国では依然としてタブーとみなされているという事実を間違いなく浮き彫りにしていると思われる。韓国ではフェミニストのレッテルを貼られるのではないかという恐怖が現実にあるため、女性たちはこの映画を見るのをためらうかもしれない」との見方を示しています。

 

韓国の映画評論家ユン・スンユン氏も映画『バービー』について、「韓国は男女平等の原則に同意しているかもしれないが、保守社会には極端なフェミニズムとみなされるものに強く反対する派閥もある」と述べています。

 

加えて、「グレタ・ガーウィグが『バービー』で性の平等を教えることはあまり魅力的ではないし、この映画があくまでも娯楽作品となる予定であることから、このようなテーマを前面に押し出すのは好ましくないかもしれない」としました。

 

さらに、日本の批評家は、この映画に対するアメリカの批評家たちの「無配慮な」反応や、核兵器のキノコ雲とバービー人形の画像の並置を公然と批判しています。

資本主義、消費主義、性差別的な政治、達成不可能な美の基準、家父長制社会、女性らしさを迫る圧力などは、映画『バービー』を鑑賞中に観客の意識の中に形成されるキーワードであり、『バービーランド』の「バービー」の視点から検討されています。 『バービー』を本格的な広告の映画版だとする人もいれば、フェミニストのプロパガンダ、さらには侮辱的な映画だと言う人もいます。

 

本作はすでにクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を超え、女性監督の映画史上最高の興行収入を記録しています。とは言え、『バービー』の広告予算は『オッペンハイマー』よりも多く、『バービー』の年齢カテゴリーはノーランの作品よりも低いため、『バービー』は今後も高い興行収入を上げるであろうことは、決して想定外ではないことに留意する必要があります。

 

バーベンハイマーの出来事は、人生の苦い真実と、ハリウッドにおけるバービーの幻想とピンクの世界との対決です。『オッペンハイマー』は核兵器やその他の爆弾の恐ろしい力を題材とした映画で、『バービー』は見る人に空想の世界を歩く機会を与えるファンタジー作品です。

 

ノーラン監督の『オッペンハイマー』は、歴史的出来事の中心において視聴者に世界の現実を突きつけ、ガーウィグ監督のの『バービー』は観客に向かって想像上のカラフルな世界を描いています。さて、ノーランの視点から歴史的悲劇を見たいかどうかを選択し、考えなければならず、はたまた、世界の暗澹たる苦い現実から逃れて、バービーというピンクの世界で何時間も過ごしたいのかを決めるのは視聴者自身です。

いずれにせよ、観客の選択や決断がどうあれ、ハリウッド映画の主要な関係者らはアメリカの政策に従い、世界中の人々の心に数多くの爆発を引き起こそうとしている人々であることを覚えておく必要があります。その爆発はほかならぬ、原子爆弾やピンク爆弾による爆発なのです。

 


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