ペルシャダマジカ
今回は、ペルシャダマジカについてご紹介することにいたしましょう。
世界の稀少動物の1つに、イランに生息するペルシャダマジカがいます。この動物は現在、IUCN・国際自然保護連合により、絶滅が危惧される生物のリストに挙げられています。
現存する証拠資料などから、ペルシャダマジカがかつてはイランの西部から南西部にかけての広い地域に生息していたことが分かっています。イラン西部ケルマーンシャー州にある古代遺跡ターゲボスターンに残された石のレリーフには、古代のイランにおいてこの種の鹿が存在し、重要であったことが示されています。もっとも、50年ほど前には、ペルシャダマジカはもはや絶滅したと考えられていました。しかし、このシカの旧来からの生息地だった、イラン南西部のキャルヘ川とデジュ川の周辺で突然、数匹が発見され、ペルシャダマジカの個体数を増やす計画を実施するチャンスが到来しました。現在、ペルシャダマジカは絶滅の危機を脱しましたが、今なお注意を要する動物とされています。
ペルシャダマジカは、シカ科ダマジカ属に属する動物です。このシカは、ダマジカよりやや大きく、体長は1.5メートルから2メートルにも及び、尾の長さは16センチから20センチ、体高は85センチから110センチほどです。体重は、50キロから130キロほどとされています。
ペルシャダマジカには、背中と体の脇に白い斑点があり、オスには平たく大きな角があります。角が生え始めるのは、1歳を過ぎてからです。角は、冬の終わりに抜け落ち、代わりにすぐ新しい角が生え始めて、夏に完全に大きな角になります。
ペルシャダマジカの体毛は、夏には短くなり、背中と体の脇の色は黄土色に、腹部と臀部そして尻尾は白くなります。背中と体の脇にははっきりとした斑点があります。冬になると、体毛が長く伸びて灰色になり、斑点が目立たなくなります。
ペルシャダマジカは鋭い視力を持ち、また水の中を上手に泳ぐことができます。自然環境では非常に注意深く行動し、危険を感じると高く飛び上がって逃げます。時には、樹木や潅木の茂みの中に隠れることもあります。夏には、体の表面にある斑点がはっきりしてきて、外敵から目をくらますために好都合な保護色となります。
ペルシャダマジカは、植物の葉や枝、さらには茎の皮などをエサとしています。大抵は日の出前、或いは午後に草原に草を食べに出かけ、残りの時間帯はそれまでに食べたものを反芻したり、休息したりしています。もし、生息地のそばに小麦畑やそのほかの畑作地があれば、時には夜にこれらの場所に草を食べに出かけることもあります。
ペルシャダマジカは、群れを成して生活しており、普通はメスや子どものダマジカは、高齢のオスのダマジカとは別に行動しているのが見られます。
ペルシャダマジカは大抵、秋の初めに交尾します。オスのペルシャダマジカは非常に美しく、堂々とした風格にあふれており、人間のいびきに似た声で自らの縄張りをアピールします。この季節には、交尾をする相手のメスをめぐって、オスどうしの争いが見られます。
より力のあるオスのダマジカは、複数のメスに対する求愛行動を行い、自分のための決まった縄張りを作って、ほかのオスを寄せ付けないようにします。この争いで負けたオスは、その縄張りを去り、他の縄張りを探さなければなりません。交尾のシーズンには、ペルシャダマジカのオスは次第にやせてきます。また、広範囲の場所において、大抵は2匹または3匹のメスを伴っての縄張りを形成します。
ペルシャダマジカの妊娠期間は、およそ8ヶ月ほどです。1回の出産につき、1匹の子どもを生むのが普通であり、1回に2匹の子どもを生むのはごくまれです。出生時の子ジカの体重は、およそ4キロから5キログラムで、生まれてすぐに歩いたり走ったりすることができます。しかし、母親は出産後数日間は、子ジカを背の高い草むらに隠します。
ペルシャダマジカの子どもは、周りの環境と体色が似ていること、独特の匂いがないこと、そして動きが少ないことから、ほとんど肉食動物の目に触れません。子ジカは、1歳半で成熟し、平均寿命はおよそ16年間です。この点から、専門家の間では、適切な計画が立てられ、ペルシャダマジカにとって安全で適切な生息環境が整った場合、しばらく後にはこの種のシカの個体数がかなり増加すると見られています。
過去においては、ペルシャダマジカの分布状況はイランの西部と北部地域から、アフリカの北東部、そして南ヨーロッパやバルカン半島にまで広まっていました。しかし、現在ではこのシカの生息地域はイラン南部のフーゼスターン州、及びデジュ川とキャルヘ川にそったザグロス山脈といった、密林地帯や人里離れた地域のみに限られています。
ペルシャダマジカの絶滅を防ぐため、このシカの一部は人為的に北部マーザンダラーン州の平原、南部ファールス州の平原、そして北西部にあるオルミーイェ湖に浮かぶ島に移されています。この措置が講じられたことから、ペルシャダマジカを取り巻く現状は、比較的好ましいものとなっています。
専門家の見解では、ペルシャダマジカの今後にとって最も重要な問題は、開墾による草原の農業用地への転用、過剰な放牧、環境保護基準を守らないままの農業や工業、サービス業の開発、そして気候の変動により生息地が破壊されることだと考えられています。しかし、イランの環境問題の専門家は、ペルシャダマジカを絶滅の恐れのある動物のリストから外すため、適切な保護政策や生息環境の整備に努めています。
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