アメリカの核合意違反
アメリカによる核合意違反は、疑いようのない事実です。しかし、アメリカはどのような目的を追求しているか、という疑問もわき起こります。アメリカのトランプ大統領の目的は、核合意を影響力のないものに変えること、あるいはイラン恐怖症を植え付け、イランに圧力をかけ、敵対行為を行うことなのでしょうか。
核合意は、イランと6カ国、つまり、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国の協力による成果です。
アメリカも、核合意締結国として、安保理決議2231にしたがって、制裁を解除し、イランにおける経済活動や投資活動を妨害するのを自制しなければなりません。核合意の26、28、29項にはこの責務が強調されています。しかし、アメリカの核合意以降の立場と決定は、アメリカがこの条項に違反していることを示しています。
アメリカは、イランが弾道ミサイルの実験により、国連決議を守っていないという、この核合意には関係のない口実により、イランに対する新たな制裁を行使しています。
この制裁は、3つの立場によるものです。
一つ目は、弾道ミサイル実験に対する反対、二つ目はイスラム革命防衛隊とゴッツ軍を初めとするイランの防衛機関が脅威であるように見せかけること、三つ目はイランが人権に反しているという非難です。
イスラム革命防衛隊の本質と目的を脅かすことは、議会の法案可決により、制裁によるアプローチを拡大することで、新たな法令を出すという、アメリカが長年にわたり行っているシナリオです。この一連のプロセスは、1982年のレバノンのアメリカ海兵隊基地の爆発事件や、1996年6月25日のサウジアラビアにあるアメリカ軍の宿舎における爆発事件へのレバノン・シーア派組織ヒズボッラーやゴッツ軍の関与の疑惑、バーレーン、サウジアラビア、イエメンのシーア派をイランが支援しているとする疑惑など、イスラム革命防衛隊がアメリカの地域、国際的な利益を脅かしているという主張に基づいた、偽りのイメージ作りにおける行動と見ることができます。
しかし、断片的な事柄をまとめると、こういった軍事組織を嫌悪する最も重要な点は、イランの外交関係に緊張を生み出すことだということが認められます。
トランプ大統領は、イランは地域に危機を作り出していると非難することで、イランに過激な反発を行わせ、自国の核合意離脱をこれによって正当化しようとしていると、一部の有識者は考えています。たしかに、これはまだ可能性の話ですが、イスラム革命最高指導者のハーメネイー師は、これ以前に、トランプ大統領が選挙戦の演説で核合意を破棄すると語ったとき、次のように語りました。
もしアメリカが核合意を破棄するのであれば、我々はそれに火をつける。
イランの核合意遵守のレッドラインは、イランの利益が保護されることであり、核合意がその本質から逸脱したとき、イランは核合意にとどまることはありません。
アメリカの核合意の約束不履行は、核合意が国連安保理決議により、国際的な合意となり、すべての締結国は、これを守らなければならないという状況の中で行われています。イランは核合意に沿って行動しており、IAEA国際原子力機関も、報告の中で、イランの良好な態度や核合意に沿った行動にふれ、専門家も、イランが申告した核活動を肯定的に評価しています。アメリカは、核合意締結国の一部、特にイギリス、フランス、ドイツにイランとの協力や制裁解除を控えさせようとしました。ロシアの政治戦略センターのセルゲイ・ミヘエフ所長は、次のように語っています。
「イランと6カ国は核計画に関する対立を完全に解消するため、核合意を締結し、その完全な履行を責務としたが、現在、アメリカは約束を履行せず、国際規約の最大の侵害国とされている。」
イラン国民のアメリカに対する強い不信感は、イスラム革命勝利後のおよそ40年間において、様々な場面で現れてきましたが、これは、アメリカ政府の責務不履行による結果なのです。その中には、すべての国連加盟国に義務付けられている、主権や政治的な独立に対して力による脅迫を避けるよう求める、国連憲章4条2項の違反があります。また、第7条でも、国連に対して、あらゆる国の内政干渉を許可しておらず、すべての国連加盟国はこの原則を守るよう義務付けられています。しかし、アメリカはイランでの1953年8月のクーデターの計画と実施に関与し、内政不干渉の原則に違反しています。
アメリカは80年代のイラン・イラク戦争時においても、中立を守らなかったばかりか、ある時期においては、イランの勝利を防ぐため、イラクを全力で支援しました。アメリカはそのほか、1988年7月に、ペルシャ湾上空でイラン航空の旅客機をミサイル巡洋艦ヴィンセンスから発射された誘導ミサイルにより撃墜し、これにより旅客機の乗員乗客全員が死亡しました。この攻撃もまた、国際法規や、国際便の安全を守る原則への違反であり、また、民間機の攻撃に関するアメリカの規約にも反しています。
アメリカはまた、気候変動に関する京都議定書やパリ協定などの規約に違反したり、離脱したりしています。核問題においても、アメリカは40年以上に渡り、NPT核兵器不拡散条約の加盟国となっていますが、これまでに、NPTの第6条などを守っておらず、アメリカは自国の保有核兵器を新型化しています。
核合意についても、世界の多くの国や要人がアメリカの責務不履行を認めています。少なくとも、IAEAの28の報告は、イランの核計画に逸脱がないことを認めています。イランは核合意に関する規約をすべて実施していますが、一方でアメリカは、これまで核合意に関して約束を守っていません。アメリカの新聞ニューヨークタイムズは、次のように伝えています。
「トランプ大統領は顧問に対して、イランを核合意に関して非難できるような報告を提出するよう求めた」
ニューヨークタイムズによりますと、アメリカは同盟国に対して、イランとの新たな協議に参加するための準備を整えるよう伝え、そうでなければ、パリ協定から離脱したように、アメリカが核合意から離脱することもありうるとしました。さらに、次のように記しています。
「アメリカはイランが核合意に違反したと非難するため、イランの要請を拒否することに腐心している」
情報筋によりますと、アメリカ政府関係者は核活動の疑いのあるイランの軍事施設への査察要請に関して、IAEAの関係者とウィーンで会談を始めているということです。アメリカの政治専門家ジム・ウォレシュ氏は、プレスTVのインタビューで、アメリカの対イラン制裁に走る政策を批判し、次のように語りました。
「私見では、制裁は愚かな政策であり、制裁はイランのミサイル計画を停止することはできない。問題は単純で、核合意は実施されている。イランの核計画に関して、アメリカのメディアは長年、イランは隠れて核兵器の開発計画を進めていると主張を行ってきたが、それを証明する証拠は提出されていない。合意が締結されたとき、メディアはすべての主張は偽りだったと語っていない」
ウォレシュ氏は、アメリカの対イラン制裁の理由について、このように語りました。また、アメリカのポール・ライアン下院議長は、次のように述べています。
アメリカの政府関係者とトランプ政権のチームは、イランに圧力を行使する目的とは、アメリカ国民の安全保障にあると主張しているが、これは新たな嘘である。
アメリカの元情報関係者と38人の元軍高官は、以前にトランプ大統領に書簡を送り、核合意を維持するよう求め、この合意はアメリカの利益だとしています。
外交誌フォーリン・ポリシーのインターネットサイトは、少し前に記事の中で、イランには対抗すべきだが、核合意は危険にさらすべきではないとしています。この見解の大枠は、イランに対するアメリカの敵対行為と陰謀が終わらないことを意味しています。
イラン恐怖症に向けた動きは、活発化しており、アメリカの政府関係者は非現実的な形で、イランを地域の安定を乱す存在だとしています。この主張は、根拠がまったく存在せず、単に、イラン恐怖症に向けた動きの継続を正当化する理由となっているのです。