7月 29, 2018 20:20 Asia/Tokyo
  • ことわざ:「ハトはハトと。タカはタカと」
    ことわざ:「ハトはハトと。タカはタカと」

昔々のこと。鳥を売る一人の商人がいました。

昔々のこと。鳥を売る一人の商人がいました。

彼は鳥たちの通り道に罠をはり、捕まえては、鳥たちをかごに入れて、自分の店で売っていました。店にはスズメ、キジバト、サヨナキドリ、カナリア、オウム、ハト、ムクドリなどの鳥があふれかえっていました。この店に来る客にも、様々な人がいました。例えば、サヨナキドリを買いに来て、その美しいさえずりを楽しむ者もいれば、ハトを買いに来て、ハトと戯れたり、あるいはハトの首を切ってごちそうを作ったりする人もいました。また言葉を話すオウムを買いに来る人もいました。

 

ある日、商人が、さて今日はどんな鳥がかかっているかしらと罠を見に行くと、数羽のスズメと一緒にカラスがいました。商人は考えました。

「カラスを買おうなんて思う人はいないだろう。美しい声で鳴くわけでもないし、料理にも向いていない。」 

そこで商人はカラスを逃がしてやろうと網に手をかけました。人を恐れたカラスは彼の手をくちばしで強くつつきました。商人は悲鳴をあげて、カラスに言いました。

「俺の手をつつくなんて!よし、いいだろう。逃がしてやろうと思ったがやめた。懲らしめのために鳥かごに入れてやる!」

 

商人は、スズメと一緒にカラスを鳥かごの中に入れました。他の鳥と一緒になれたカラスは、喜んで言いました。

「この鳥かごから逃げ出す方法を考えよう。一緒に知恵を絞って、何ができるかを考えてみるんだ」。

スズメたちはさえずりながら言いました。

「君の言うとおりだ。鳥かごから逃れる方法を考え出さなくちゃ」。

 

ところが、自分を世界一素晴らしい鳥だとうぬぼれていたオウムは、仲間に加わったばかりのカラスが、鳥たちを救い出すことを考え、早くもスズメたちを説得してしまったことを不快に思って反論しました。

「そんな言葉は、君のような真っ黒なカラスには似合わない。黙って自分の運命を受け入れたらどうだい?」

 

カラスはオウムを一瞥すると言いました。

「なんて自分勝手なんだ!もし神の創った無限の空や広々とした森を自由に飛んでいたら、君は今頃何をしていた?そのとき君は、自分が鳥たちの神だと言っていたに違いない。まったく、自分の声音を変えて人間のまねをするなんて。君はそれを自慢に思っているみたいだが、人間たちが我々に何をしてくれたと言うんだい?彼らは罠をしかけ、鳥かごに入れ、殺すこと以外、してくれたことなんかありはしない」

 

オウムは言いました。

「もういい加減にしてくれないか。君のうるさいがなり声はカンにさわる。それじゃ君には、人間の声が出せるのかい」

カラスは言い返しました。

「何のためにそんなことをしなきゃいけないんだ?君みたいに巣を作ってもらって、ピエロみたいに人間のために真似をしろだって?そんなことをするくらいなら、鳴き声を嫌われて、鳥かごに入れられないほうがよっぽどマシだ」

オウムは言いました。

「まったくなんということだ!ハトやスズメの鳴き声だけでも十分にうるさかったのに、カラスまで加わるなんて!」

 

スズメたちは口々に言いました。

「僕たちの鳴き声は美しいじゃないか。もし聞きたくないんだったら、耳をふさいだらいい」。またハトたちも言いました。「僕たちの鳴き声がどんな風であろうと、自分たちにとっては最高だし、自分の声を気に入っている」

 

皆の話を聞いていたカラスは少し考えて言いました。

「そう、スズメは自分たちの鳴き声を気に入っているし、ハトたちだって同じだ。そして私たちカラスも、自分たちの声に誇りを持っている。僕たちは、人間に苦しめられてきたんだ。その上、オウムの人間の声にも苦しめられるなんて。君は人間の声を気に入っているんだったら、ここに残って、ずっと鳥かごの中で暮らすがいい。僕らは僕らで何とかするから」

 

カラスはそう言うと、カーカーとやかましく鳴きはじめました。すると、仲間の声を聞きつけたカラスたちが店の周りに集まってきて、皆で一斉にカーカーと鳴き始めたではありませんか。たまらなくなった店の主人は、かごの扉を開いてカラスを解放しました。この騒ぎに乗じて、別の鳥たちも次々に飛び立って行きました。気が付くと店に残ったのはオウムだけでした。オウムは、人間の声をまねするために鳥かごに残ったのでした。このときから、自分と似た境遇や立場の人と交際するのが賢明だという教訓を込めて、こんな風に言われるようになりました。

 

「ハトはハトと、タカはタカと」