イランの刺繍の町『イランシャフル』
先週、イラン南東部のスィースターン・バルチェスターン州のイランシャフルが、イランの刺繍の町に選ばれたと伝えられました。
刺繍は、イランの伝統工芸、伝統芸術の一つで、その発祥地はスィースターンバルーチェスターン州、特にイランシャフル行政区です。この芸術のデザインは、バルーチ族の女性たちの思想から生まれたものです。
刺繍は、スィースタン・バルーチェスターン州の多くの都市で行われていますが、特にイランシャフルが刺繍の町に選ばれたのは、その工房の数の多さと技術の高さによります。
イランシャフル行政区は、バルーチェスターン州の中部、この州の中心都市であるザーヘダーンから345キロの距離にあります。20の共同組合に140の個人や団体が加盟していること、またこの町で作られた刺繍の質の高さも、イランシャフルが刺繍の町に選ばれたゆえんです。
また、イランシャフルには、世界的に知られる刺繍職人がいます。マフターブ・ノウルーズィーは、最も有名なバルーチの刺繍職人で、その作品は非常に独創的で、現在、彼女の芸術作品の一部は、テヘランにあるサーダーバード宮殿に保管されています。
マフターブ・ノウルーズィーは、刺繍芸術を母親から受け継ぎ、若くして刺繍職人になった後、イランの多くの女性にこの芸術を教えてきました。マフターブ・ノウルーズィーは、晩年まで作品を創り続け、2012年に亡くなりました。
イランの伝統的な刺繍は、衣服や多くの布を装飾する最も古い方法のひとつで、人類の生活の中に用いられてきました。イランの文化と歴史や伝説を結びつける、バルーチェスターンの刺繍は、常に、この地域の女性たちの高い能力と可能性によって発展を遂げてきました。
刺繍芸術の歴史を正確に示す資料は残っていませんが、バルーチ族の女性たちの刺繍芸術の歴史に関しては、紀元前6000年から5000年の陶器に、バルーチの女性による模様と似た幾何学模様が見られます。また、一部の研究者によれば、バルーチの刺繍の模様は、先史時代の石の彫刻の模様に近いものとなっています。
刺繍は、シンプルな布の上に色のついた糸で模様を縫い込んでいく芸術です。針と糸を使って、布の上に細かい模様を縫い込みます。
刺繍の方法にはさまざまありますが、通常は、長方形、あるいは丸い枠に布をはめこみ、布に書かれたデザインの上に色のついた糸を縫い込んでいきます。布は、綿や絹などで、糸は絹、羊毛、合成繊維などでできたものが使われます。
刺繍の特徴は、色の多様性や縫い目の細かさで、それは地域の芸術、伝統、情熱を表し、スィースターン・バルーチェスターンの他の芸術と同じように、古くからこの地域で見られてきました。その例は、イスラム初期、モンゴル族の王朝、特にティムール朝とサファヴィー朝時代に遡ります。
刺繍は、バルーチ族の女性たちの独創性、情熱、肉体的な能力を示しており、その歴史はバルーチェスターンの歴史であり、そのため、バルーチ縫いとも呼ばれています。バルーチの多くの女性は、生き方の原則と同時に刺繍を学び、幾何学模様やさまざまな植物、自然をモチーフにした模様を駆使して、幻想的な形を作り出します。
スィースターン・バルーチェスターン州の刺繍を見ると、多くの模様やデザインは幾何学模様の原則に従ったものですが、この地域の人々の周囲の環境に対する見方や自然、生活に密接に結びついており、多くの構造は自然をモチーフにしています。
刺繍芸術で特筆すべきなのは、ミシンや機械を使わないことです。刺繍はすべてが手作業で行われ、バルーチの女性たちの頭の中に浮かんだイメージが、布の上に表現されます。
バルーチの刺繍芸術では、糸と布の調和や色の調和への注目が、ひとつの技術となっています。刺繍作品では、布と糸の色の多様性により、それらの調和が守られることが必要になっています。
多様な色彩、無限にあるデザインや模様、縫い目の細かさが、この芸術の特徴です。これらの点で、バルーチの刺繍は、手作業による縫製芸術の中でも優れており、見る者を魅了してやみません。
バルーチの刺繍で使われている布は、縦糸と横糸がはっきりしていること、それがまっすぐであることという2つの特徴がそろっていなければなりません。
刺繍のやり方は、まず、布を選び、その上にデザインを描きます。デザインが決まったら、そのデザインの外側の線から糸を刺し始めて、デザインの形を明確にします。そこから細かい部分の作業に入るのです。
刺繍の模様は、母から娘へと伝えられ、現在、スィースターン・バルーチェスターンの女性たちを知る上での最も重要な文化的手段となっています。
バルーチ族の女性たちの手工芸は、柔軟性と魅力を持ちあわせており、イランの多くの服飾デザイナーは、バルーチの刺繍からヒントを得ています。このように、現在この芸術は、多くの芸術や手工芸の作品に用いられており、人々の生活スタイルの変化や、今後の雇用機会の創出に重要な役割を果たすと考えられています。
例えば、現在、刺繍作品は、衣服だけに限られず、家具、飛行機やバスの椅子のカバー、テーブルクロスなどにも使われています。
バルーチ族の女性たちの衣服の多様性と刺繍芸術における明るい色の使用により、この芸術やバルーチ族の刺繍に興味を持つ人の数が増えており、世界中のデザイナーの注目を浴びています。マフターブ・ノウルーズィーの芸術作品は、フランスをはじめとするヨーロッパ諸国にも渡り、衣服のデザインに使用されています。
スィースターン・バルーチェスターンの女性たちの刺繍には、暴力的な感情は一切見られません。興味深いのは、乾燥した砂漠地帯は、色彩が薄いにも拘わらず、スィースターンバルーチェスターン州、特にイランシャフルの女性たちの刺繍作品では、色の多様性が見られます。
このように見てくると、グローバル化の中で、さまざまな民族のアイデンティティを芸術作品や文化という形で保つことが可能になっています。そうした芸術作品や文化は、一つの社会の文化を伝える上で根本的な役割を果たしています。
文化的な作品は、その地域の民族を知る手がかりであり、さまざまな価値観や理想を決定するものです。ただし、人々は現代の生活の重要な原則として、文化をしかるべき形で理解することが必要です。なぜなら、現代の文明的な社会において、その文明の活動は、文化的な特徴を通して、外部に紹介されていくからです。
このような状況の中で、バルーチ族の刺繍芸術の伝統は非常に価値のあるものであり、イランの文化的、文明的な特徴として世界に紹介することができるのです。