バロチスタンツキノワグマ
今回は、バロチスタンツキノワグマをご紹介することにいたしましょう。
現在、IUCN・国際自然保護連合が定める、絶滅の恐れがある生物のレッドリストに挙げられている動物の1つに、バロチスタンツキノワグマがいます。このクマは、世界でイランとパキスタンのみに生息し、以前にこの番組でご紹介したアジアチーターと同様に、絶滅の危険にさらされています。
バロチスタンツキノワグマはアジアクロクマの一種で、単独で行動する、しかし非常に美しい動物です。形態学的な見解では、ツキノワグマは先史時代のクマと非常に良く似ているとされ、一部の学者はツキノワグマが現在の各種のクマの祖先であると考えています。
この種のクマは、体色が赤褐色のクマより小さく、顔面は比較的細く、耳が大きくなっています。体毛は細く長く、黒々として艶があり、胸に三日月形の白い紋があります。
バロチスタンツキノワグマの体の大きさは、摂取する食物の種類により体長が130センチから160センチ、体重は200キロにも達します。手足は短く、5本の指には反り返った鋭い爪が生えており、樹木や岩、山に上る際の助けになります。足に比べて手が短いことから、この動物は上り道を行く時よりも、下り道を行くときのほうが速度がゆるくなります。
クマは、ヒトのように2本の後ろ足で立ったり、歩いたりことができます。クマが後ろ足のみで立っている姿は、怒りを表したり、攻撃するときに多く見られます。クマの瞳は小さく、また視覚や聴覚はそれほどすぐれていませんが、非常に鋭い嗅覚を持っています。
バロチスタンツキノワグマは雑食性です。このため、他の肉食動物に比べて大臼歯が大きく丸みを帯びており、ナツメヤシなどの果実のタネを容易に噛み砕くことができます。しかし、その一方で長い犬歯を持ち、これは獲物を捕えるときに使います。さらに、肉を食べる際には鋭い小臼歯を使います。
イランに生息するバロチスタンツキノワグマは大抵、果物や植物の芽などを食べます。また、他の種類のクマよりも木に上ることが多く、ココヤシの樹木が多く見られるイラン南東部のスィースターン・バルーチェスターンの低地の多くでは、この種のクマが柔らかく栄養価の高いココヤシの実や新芽を食べている様子が見られます。
この地域における高度の高い山岳地帯でも、バロチスタンツキノワグマのエサとなるのは主に、野生のアーモンドやイチジク、オリーブ、そしてアンズなどの果物です。この地域に住むバロチスタンツキノワグマは、植物性の食物のほか、昆虫や小型の脊椎動物、哺乳類の新生児、そして時には家畜をも襲って食べることがあります。
バロチスタンツキノワグマは夜行性で、大抵は日没以降に巣穴から出てきて、翌朝空が明るくなる前に再び巣穴に戻ります。また、非常に巧みな技で木に登り、単独で生活しています。さらに、岩の割れ目や岩窟などの岩場に巣をつくります。
バロチスタンツキノワグマは、赤褐色のクマよりも攻撃性が強い傾向があります。この種のクマは雑食性ですが、人間に対しては非常に獰猛で、人間がこの種のクマに襲われたケースも報告されています。
バロチスタンツキノワグマは、3歳から4歳で成熟し、生殖を開始します。交尾は大抵、夏の中ごろから始まり、この間にオスとメスは数日間一緒に過ごします。
バロチスタンツキノワグマの妊娠期間は一様ではありませんが、普通は7ヶ月から8ヶ月ほどに及びます。出産の時期は、冬の終わりにあたり、通常は双子を生みます。子グマは、生まれた当初は非常に小さく未熟で、体重はおよそ500グラムしかありません。また、体毛はなくピンク色をしており、目は開いておらず非常に弱い状態にあります。
母グマは、子グマが生まれてからおよそ6ヶ月間授乳します。子グマたちは、2歳になるまでは母グマの庇護のもとで育ちます。これは、特にまだ外敵に対抗したり、逃げたりするといった生きるために必要な能力がない生後1年間は、母グマの助けがより多く必要であることによります。
クマは一般的に、生まれた子グマがその年にまだ生きている場合には普通、2年に1回の割合で子どもを生みます。子グマが死亡した場合には、その年に再び交尾し、妊娠することもあります。クマの平均寿命は、およそ30年とされ、研究者の間では、クマの個体数が減っている原因の1つは、生殖方法に問題があることだとされています。
イランにおけるバロチスタンツキノワグマの生息地域は、南東部のケルマーン州、スィースターン・バルーチェスターン州、南部のホルモズガーン州のみに限られています。もっとも、イランの環境管理の責任者による報告によれば、スィースターン・バルーチェスターン州のニークシャフル、チャーバハール、サルバーズ、イーラーンシャフルといった各行政区の丘陵地帯で、この種のクマが最も多く発見されているということです。
クマは、毎年3月初旬から6月の中旬にかけての暖かい時期に、より涼しい場所をねぐらに選びます。このため、1年うちのこの時期は、より海抜高度の高い地域や、西向きの洞穴、さらには半日しか日光が当たらない場所などに生息しています。
バロチスタンツキノワグマは、環境や様々な食物への適応能力を持っていますが、その隠れ場所が発見しやすいため、ハンターに容易に見つかってしまいます。毎年、数多くの子グマがナツメヤシの実を食べるために木に上った際に村人に見つかり、捕獲されています。このため、バロチスタンツキノワグマは絶滅の危険に瀕しています。もっとも、今日はイラン政府が専門家のグループを派遣して、地元民に必要な指導を行い、この種の希少動物の存続を支援しています。
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