7月 30, 2017 19:43 Asia/Tokyo
  • 聖典コーラン
    聖典コーラン

信仰を守るために、我が身を捧げること、それは昔から大きな魅力を持つものでした。

歴史には、この道において命を捧げ、他の人々に、目的を果たすための抵抗を身をもって教えた数多くの人々が存在します。一方で、圧制者たちが、その悪しき行いの結果、滅びることは神の掟となっています。

 

男は、北の方角からサヌアの町へと向かっていました。灼熱の荒野を通り過ぎ、サヌアの町の門をくぐって、急ぎ足で、イエメンの王、ズーナヴァースの宮殿へと向かっていました。彼の慌てふためいた様子から、重大な要件を携えているのは明らかでした。男は宮殿に到着すると、慌ただしく中に入ろうとしましたが、衛兵に押しとどめられてしまいました。そこで男は言いました。

「私は王様のために、重要な知らせを持ってまいりました」

 

ちょうどその時、ズーナヴァース王は、側近たちを従えて狩りに出かけようとしているところでした。そして、宮殿に入れてほしいと必死に訴えている男を見て、彼の方へと近づいてゆき、こう尋ねました。

「ずいぶんと取り乱しているようだが、いったい何事か。」 

 

男は息を切らしながら言いました。

「恐れながら申し上げます。ナジュラーンの人々が、キリスト教を受け入れました。僅かな人々を除いて皆が、我々が信奉するユダヤ教に背を向けてしまいました」

 

この知らせに、ズーナヴァース王は激しく憤り、狩りに行くのをただちに取りやめました。それから急いで宮殿の中へ取って返し、いつものように尊大な態度で王座につくと、側近たちに向かって、こう言い渡しました。

「ユダヤ教は我々が信奉する公式な教えである。いかなる宗教も、それに取って代わることはできない。私は如何なる手段を用いても、その新しい宗教と闘う。もしキリスト教徒がユダヤの教えを受け入れないというのなら、その首をはねてしまえ。さあ、今すぐ、軍勢の準備を整えるのだ」

 

しばらくのち、ナジュラーンの人々の許に恐ろしい知らせがもたらされました。ズーナヴァース王の軍勢が町の近くにやってきていて、彼らを攻撃しようとしているというのです。ズーナヴァースという王は、残忍なことで名をはせていて、その知らせに人々は震えあがりました。しかし、人々は、攻撃される理由が、自分たちが神の預言者を信じ、神を崇拝しているためだと聞いたとき、それに抵抗するための準備を始めました。

 

ズーナヴァース王は、町を包囲し攻撃を始める前に、ナジュラーンの有力者や長老たちを呼び集めて言いました。

「この町の人々は、一人のキリスト教徒に扇動されるままに、ユダヤの教えを捨てたと聞いている。そういうことであれば、お前たちに猶予をやろう。会議を開き、人々に以前の教えに戻るよう説得するのだ。もし、それが出来ないというのであれば、お前たちを攻撃し、一人たりとも生かしてはおかぬ。」

                        

ズーナヴァース王は、自分の権力と威厳をもってすれば、人々は簡単に自分に跪くだろうと考えていました。高慢な態度で自らの壮大な軍勢を眺めていた王は、突然、ナジュラーンの長老たちの言葉に頭が混乱してしまいました。彼らの回答はこのようなものでした。

「私たちには、話し合いの必要はありません。神の預言者であるイーサーが現れたことにより、ユダヤ教の時代は終わりました。そう、私たちは真理を見出した。それを守るためなら、自分とその子孫の命を捧げても惜しくはありません。」

 

ズーナヴァース王は、そのような答が返ってくるとは予想もしていませんでした。長老たちの言葉に衝撃を受けた王は、益々怒りをたぎらせました。そして大股で歩きながら、軍勢に向かって大きな声で命令しました。

「地面に大きな穴を掘って、そこに火を燃え立たせよ。私はそばで、新しい神を求めるこの町の人々が燃えるのを見物することにしよう」 

町には混乱が広がりました。ズーナヴァースの兵士たちが、人々を無理やり、その大きな穴の方へと引き摺っていきました。町のユダヤ教徒の中には、ズーナヴァース王の軍勢に加担し、誰がキリスト教の信者であるかを教える者さえいたのです。

 

ズーナヴァース王は穴の横に立っていました。彼は敬虔な信者たちをあざ笑っていましたが、一部の人々が、自分の信仰を守るために、自ら火の中に身を投じるのを目にすると、その拷問の厳しさをさらにエスカレートさせました。ズーナヴァース王は、残忍にも、多くの人を火の中で焼き、また残った人々も剣で殺害して、再びナジュラーンの町にユダヤ教の教えを確立させました。ズーナヴァース王は勝利に酔いしれながら、ナジュラーンを後にして、サヌアの町の宮殿へと引き上げていきました。

 

ズーナヴァース王は、神が最後には圧制者を滅ぼすということを忘れていました。王が人々を火で焼いていた頃、ナジュラーンの一人のキリスト教徒が難を逃れ、ローマの皇帝カエサルのもとにたどり着いていました。そして、ズーナヴァース王による人々の虐殺を、カエサルに報告していたのです。皇帝カエサルは、ローマからでは道のりが遠いため、エチオピアの王ナジャーシーに書簡を記し、殉教者たちの仇を取ってほしいと要請したのでした。

 

まもなく、エチオピアの軍隊がイエメンに到着し、戦闘が始まりました。そして、激しい戦いの末にエチオピア軍がズーナヴァース王の軍勢を打ち倒しました。こうしてイエメンはエチオピア王ナジャーシーの手に落ち、人々は再び、新しい宗教、キリスト教を信仰することができるようになったのです。

 

コーランは、ズーナヴァース王に迫害された人々を、「穴の民」と呼び、第85章アル・ブルージ章星座、この中で、圧制者たちが滅びる様子を述べると共に、敬虔な人々に向かって次のような言葉で彼らの士気を鼓舞しています。

 

「信仰を持つ男女を苦しめ、罪を悔い改めなかった者たちには、地獄と業火の責め苦が待っている。信仰を寄せ、善い行いをした人々には、木々の下を小川が流れる天国の楽園がある。これは大いなる勝利である」

 

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