3月 07, 2018 17:25 Asia/Tokyo
  • 1949年の映画ピンキー、ピンキーと祖母のポスター
    1949年の映画ピンキー、ピンキーと祖母のポスター

この時間は、ハリウッド映画「ピンキー」で描かれている黒人の姿について見ていくことにいたしましょう。

エリア・カザン監督による映画「ピンキー」は、1949年に公開され、黒人差別問題を題材にしています。この映画の上映時間は、およそ100分です。

 

映画の主人公は、パトリシア・ピンキー・ジョンソンという名前の女性です。ピンキーは、アフリカ系の血を引いているものの、白人のように白い肌を持っていました。ピンキーは、黒人に対する差別的な考え方を理由に、白人のふりをして暮らしていました。

 

ピンキーは、黒人の祖母ダイシーのおかげで北部の看護学校に通います。映画は、ピンキーが看護学校を卒業し、南部にある故郷に戻り、祖母のもとを訪れるところから始まります。

 

祖母のダイシーは、洗濯婦として働いています。

 

ピンキーは、祖母のダイシーから、心臓病で寝込んでいる白人女性のエマの看護をするように言いつけられます。ミス・エマは大きな農場を持っていました。ミス・エマは黒人を嫌っており、そのため、ピンキーが子供の頃、彼女が農場に入るのを禁じていました。しかし、ピンキーの献身と愛情により、ピンキーに対するミス・エマの考え方が少しずつ変わっていき、ミス・エマは遺言状で、自分の農場をピンキーに与えると記します。

 

その後、ミス・エマが亡くなり、遺言状が読まれます。ピンキーの相続の問題は、ミス・エマの家族、特にいとこのメルパ・ウードリーの大反対に遭います。メルパはピンキーに残された財産を狙い、弁護士を雇って訴えを起こし、弁護士と手を組んで、その遺言状を偽りのものであるかのように見せようとしますが、証人がいたために、それは実現されません。

 

白人の医師のトーマス・アダムスは、ピンキーに結婚を申し込み、彼女を北部に連れて行こうとします。ピンキーも最初は、自分が白人であるふりをしたかったために承諾していましたが、その後、ミス・エマの看病によって自分の中に生まれた変化により、黒人であることを否定しようとはしなくなっていました。

 

ピンキーは、南部に残ろうとし、ミス・エマから遺された農場を、黒人のための看護学校にしようとします。アダムスは土地を売り払い、北部に行って白人のように暮らそうとピンキーを説得しますが、ピンキーは、二人が幸せになれることはないと考え、結婚をあきらめてアダムスに別れを告げます。

 

1949年の映画ピンキー、ピンキーと祖母のポスター

 

映画ピンキーの特徴は、監督のエリア・カザンが、この映画によって、ハリウッド戦争後の社会的な映画の枠を超え、新たな下地を作ったことだと言えるでしょう。ピンキーは、有色人種の女性のアイデンティティの危機について描ています。この女性は、ほとんど白人であるように見えます。そのため何度も、社会に進出し、明るい未来を持つために、白人であるふりをしようと考えます。

 

この映画は、黒人と白人の関係や社会の彼らに対する見方を通して、黒人のアイデンティティの分裂を描いています。この後にもお話ししますが、ピンキーの人格の不安定さと黒人であるために社会から除外されることへの恐れが、この映画の主なテーマになっています。ピンキーに対する白人のさまざまな見方は、注目に値します。

 

この映画では、アメリカ社会やハリウッドの黒人に対するマイナスの見方が描かれています。それは、これまでに番組でお話ししたバース・オブ・ネイションとアンクルトムの小屋と同じです。この映画は、人種差別に反対しようとしていますが、この映画で描かれている白人優位の制度は、なおも黒人の権利を認めていません。この制度では、教育といった分野でさえ、社会的な不平等の影響を受けています。ピンキーは、多くの可能性を享受するため、黒人ではなく、白人の看護学校に行かざるを得なくなります。

 

社会の黒人に対する見方により、ピンキーは、社会的な地位や当然の権利を手にするために、本当の自分を偽ろうとします。最終的には、多くの出来事を経て、特にミス・エマの「ありのままに生きることが大切だ」という言葉により、自分のアイデンティティを偽ることをやめ、ありのままの自分を受け入れます。そのため、かつては自分の過去と現在、黒人の小さな世界を捨てようとしていたピンキーは、白人の医師との結婚をあきらめます。

 

ピンキーが自分のアイデンティティを受け入れる原動力となったのは、白人のミス・エマの言葉でした。このことは、1940年代のアメリカでは、黒人がまだ独立した考え方を持ち、決断を下すことができなかったことを示しています。

 

ピンキーとミス・エマ

 

ここからは、ピンキーの中のシーンについて見ていきましょう。16分からは、ジェイク・ウォルターズの農場の前での出来事が始まります。

 

ジェイクは、ピンキーの祖母の隣人です。ピンキーが北部で看護学校に通っていた時、祖母はピンキーの学費をジェイクに渡していました。しかし、ジェイクから学費が送られてきたことはありませんでした。ピンキーは、ジェイクの農場に行き、ジェイクからわずかな有り金を受け取りました。しかし、農場を去ろうとするとき、ジェイクの妻のロゼリアから言いがかりをつけられます。そこに2人の警官を乗せたパトカーが現れます。

 

1人目の警官は、ジェイクと妻に襲い掛かります。2人目の警官は、口にたばこをくわえ、ピンキーに近づき、帽子を取って彼女に敬意を表します。

 

1人目の警官からどうしたのかと尋ねられ、ジェイクは何でもないと答えます。警官は妻のロゼリアに疑いをかけ、彼女の服の下からナイフを見つけます。2人目の警官は、ピンキーに向かって、彼らに嫌がらせをされたのかと尋ねます。ピンキーは、何も言いたいことはないと言います。ピンキーは早くその場を去ろうとしますが、警官が彼女に向かって、この土地の人ではないようだが、ジェイクに嫌がらせをされたのかと再び尋ねます。ピンキーはそれを否定します。すると、警官は今度は、女性の方があなたに嫌がらせをしていたようだと言います。

 

そのとき、ロゼリアは嘲笑し、あなた方2人はなぜ、白人なのに彼女をマダムと呼ぶのかと言います。そして、彼女が私の夫を誘惑しようとしたと訴えます。

 

ロゼリアがピンキーに襲い掛かろうとし、警官がそれを止めに入ります。一人の警官がロゼリアの頬を殴ります。二人目の警官はピンキーに、「彼女の言ったことは本当か」と尋ねます。ピンキーは、自分が黒人であることを認め、それからダイシーの孫であることを話します。

 

一人目の警官は、それを聞くと、ピンキーをロゼリアの方に押します。ピンキーは不快になり、その場を去ろうとしますが、二人目の警官がそれを遮り、3人をパトカーで連行します。

 

3人は、人種差別に反対するウォーカー判事のもとに連れて行かれます。ウォーカー判事は3人にこの争いを終わらせるよう求めます。

 

 

警官は、3人が争っている場面に遭遇した後、何も尋ねることなく、黒人の体を検査します。このことは、警官が、黒人を犯罪者と想定してみていることを示しています。

 

社会に安全と秩序を確立する責務を負っているはずの警察は、社会の出来事を人種差別的に見ています。警察は、ピンキーのことを白人だと考えて彼女に敬意を払っていましたが、黒人であることが分かると、態度を一変させます。

 

ピンキーは何の罪も犯していないにもかかわらず、その場を早く去ろうと必死になります。なぜなら、黒人であることが明らかになり、それまでの経験から、自分が不利な立場に置かれ、不当な扱いを受けることを恐れているからです。

黒人としてのアイデンティティを受けい入れるか悩むピンキー