預言者アイユーブの物語
今回は、預言者アイユーブの物語をお届けしましょう。
天使たちは、アイユーブの感謝と祈りの声を耳にするたびに、彼を称え、彼を神の最高の僕と呼んでいました。しかし、悪魔は、このような一人の人間の偉大な姿に耐え切れず、神に向かってこのように言いました。
「アイユーブが平穏と満足に感謝できるのは、彼があらゆる恩恵に授かっているためだ。彼は預言者でもあり、また十分な富を有してもいる。また、快活な子供と優しい妻がいる。もし彼からそれらの恩恵を奪い、彼を災難や苦難に陥れれば、彼はもはや、あなたに感謝をしなくなるだろう」
そのとき、声が聞こえました。
「我々は自らの僕をよく知っている。だが、アイユーブを試すために、お前にチャンスを与えよう」
その日、アイユーブの子供たちは、不安な面持ちで父親の許にやって来て言いました。
「まるで全てのものが燃やされて無くなってしまったかのようです。日々の食料でさえ、やっとのことで手に入るような状態です」
しかしアイユーブは、子供たちに何かを言うことなく、穏やかな表情で、両手を広げて祈りを捧げました。
「主よ、私が持っていたものは、私があなたから預かっていたものです。私はどのような状態にあっても、あなたに感謝します。あなたは私に惜しみなく与えてくださるのに、この無限の恩恵に、どうしたら感謝することができるでしょうか?」
この試練に敗れた悪魔は、再び言いました。
「神よ、私の力がアイユーブの子供たちに及ぶようにしてくれれば、それによって、アイユーブの忍耐力のなさを、あなたに示してみせよう」
数日が過ぎました。2人の人間がアイユーブの許にやって来ました。彼らはどちらも、落ち着きがなく動揺していました。アイユーブは尋ねました。
「どうかしたのですか?何か言いたいことがあるのですか?」
彼らは互いに顔を見合わせました。どのようにして話を切り出したらよいのか、分からないようでした。とうとう2人のうちの一人が言いました。
「庭の壁が崩れて、あなたの子供たちが皆、死んでしまいました」
アイユーブは何も言いませんでした。ただ涙を流し、それから顔を上げて言いました。
「寛大な神よ、私の子供たちは皆、あなたの恩恵でした。あなたから私が預かっていたものです。あなたは一度に、それらを取り戻すことを決められました。私はあなたを称えます。そして、あなたの無限の恩恵に感謝することなどできないことを知っています」
アイユーブの純粋な心や服従の心は、悪魔にとって、まるでハンマーで殴られたかのような衝撃でした。しかし、一瞬たりとも、人間を欺くのをやめないと誓っていた悪魔は、別の策略をめぐらせて言いました。
「神よ、アイユーブがあなたに感謝しているのは、再び財産と子供を返して欲しいからだ。もしアイユーブから健康という恩恵を奪い、彼の体が重い病に蝕まれれば、あなたはアイユーブが恩を忘れて感謝をしなくなるのを見るだろう」
アイユーブは病に臥してしまいました。彼の体にはたくさんの傷ができていました。人々は、アイユーブが、それまでの神に近い高い地位を失ってしまったと考えたため、アイユーブとの関係を絶ちました。悪魔は、自分の目的をもう少しで達成できそうだと考え、大変喜んでいましたが、そのとき、アイユーブの苦しそうな弱々しい声が聞こえてきました。アイユーブは神への感謝の言葉を口にしていました。
「主よ、このあなたの無力な僕は、健康という恩恵をあなたから与えられていました。もしそれが奪われたと言うのなら、私は心から、あなたの命に従います。あなたが私に信仰という恩恵、命と言う恩恵を与えてくださったというのに、どうしてあなたに感謝せずにいられましょうか」
悪魔は怒りを覚え、仲間たちに助けを求めました。悪魔の仲間たちは言いました。
「アイユーブの妻は今なお、彼を信頼している。彼女を利用して、アイユーブを屈服させることができるだろう」
悪魔は大喜びで人間の姿になり、アイユーブの妻のもとに行きました。そして、偽りの言葉を並べ立て、彼女の抑えていた悲しみを煽り、神の助けと慈悲に対する希望を失わせました。アイユーブの妻は、夫の許に行き、言いました。
「神はいつまで、あなたのことを苦しめ続けるのでしょう。なぜ神は、あなたの悲しみを取り除いてはくれないのでしょうか? 富、子供、若さ、栄誉はどこに行ってしまったのでしょう?」
アイユーブは答えました。
「どうやら本当に、お前は悪魔に欺かれてしまったようだ」
アイユーブの妻は、悲しそうに言いました。
「なぜ、あなたの悲しみや苦難を取り除いてくれるよう、神に求めないのですか?」
アイユーブは言いました。
「お前はどれくらいの年月を、恩恵や栄誉の中で暮らしてきたのか?」
妻は言いました。
「80年です」
アイユーブは再び尋ねました。
「では、苦難に陥ってから、何年になる?」
妻は答えました。
「7年です」
アイユーブは言いました。
「私は、自分の苦難を取り除くよう神に求めることを恥じる。なぜなら、恩恵に授かっていた時期と苦しみに陥っている時期は、その長さがずいぶんと異なるからだ。病気が治って起き上がることができ、再び力を得たら、私はお前を100回の鞭打ち刑にするだろう」
アイユーブは一人きりになり、病は一層、ひどくなっていきました。ある日、アイユーブは苦しみにうめき声を上げながら、神に助けを求めました。
「神よ、悪魔が私を苦痛に陥れました。あなたは慈悲深いものの中でも、最も慈悲深い方であられます」
神は、アイユーブの悪魔に対する忍耐と勝利に満足し、このように語りました。
「アイユーブよ、地面を足で踏みつけなさい。そこから、澄んだ泉がわき出るだろう。その水を飲み、それで体を清めなさい。健康と若さを取り戻すだろう」
それまで、離れた場所からアイユーブの状態を見守っていた彼の妻は、喜んでアイユーブの許に戻りました。しかし、アイユーブは、彼女を鞭打ち刑にすると誓っていました。そこで神は、アイユーブに言いました。
「細い木の枝を100本束ねたものを握り、それで1度、優しく妻を叩くのだ。そうすれば、あなたの約束は果たされるだろう」
コーラン第38章サード章、第43節と44節には、これについて次のようにあります。
「我々は、別の援助者たちの中から、彼に家族とそれに似たものを与えた。これは我々からの慈悲であり、賢い者たちへの忠告とした。我々はアイユーブを忍耐強い僕と見た。彼は常に、我々の方を見ていた。何と優れた僕であったことか」