ヘルス・ツーリズム
今回は、ヘルス・ツーリズムと呼ばれる、健康観光についてお話することにいたしましょう。
健康観光とは、心と体の健康の回復を目的に、医療措置や診断を受けるために行われるものです。
旅行は、常に人類の生活の歴史に定着していました。過去においては、旅行の主な目的は貿易や巡礼であり、旅行は長い年月にわたり様々な社会において贅沢な事柄とされ、豊かな人々だけが長旅に出ていました。しかし、18世紀のヨーロッパで産業革命が起こり、交通・連絡手段を初めとする人間の生活の様々な側面が進歩したことから、世界では次第に観光業が一般化しました。今日、観光業は世界経済において利益をもたらす一大産業となっています。また、石油産業や自動車産業に次ぐ世界第3位の産業と言われ、社会における雇用機会の創出や収入源、そして貧困の改善や社会正義、福祉の拡大につながっています。
観光業には、史跡の見学や自然散策のほか、文化、経済、ビジネス、留学,スポーツ、探検、宗教といった様々な側面が存在します。これらの分類の基準となっているのは、その観光の主要な目的やねらいとされています。
この数十年間でとみに注目を集めている観光の1つが、ヘルス・ツーリズムと呼ばれる健康観光です。病気の治療や予防のためのサービスを受ける目的で他国に渡航する人々は、医療目的での旅行者に分類されます。(次の一文は繰り返しのため削除)医療目的の旅行客は、自分の居住地から他国に渡り、渡航先の国の医療機関によるサービスを受けることになります。健康観光は、世界の数ある観光業の中で最も発展している部類とされ、また世界でも医療目的での旅行者が増加しています。
現在、世界では年間およそ700万人以上が医療サービスを受けることを目的に旅行しているとされています。健康観光市場は、世界でも収入源となる、また競争の激しい産業の1つとされています。このため、世界各国の政府は大々的にこの産業の経済的なメリットを利用しようとしています。発展途上国を初めとする世界の国の多くが、健康観光に投資する傾向を見せており、各国が顧客の獲得をめぐり、熾烈な競争を繰り広げています。
健康観光の中で最も広まっているのは、医療観光です。医療観光は、世界における医療と旅行という、利益の多い2大産業を組み合わせたものであり、世界における医療観光市場の収益は、年間4390億ドルに上ります。
健康観光を目的に、この産業の盛んな国に渡航し、渡航先の国の医療機関に赴く理由として、より質の高い医療サービスや高度医療技術の利用、自国外により優れた専門医が存在すること、自国よりも治療費が安く、また順番待ちをしないで済むことが挙げられます。これらの観光客の目的は、一般的に費用がより安く、より高度な医療技術を有する国の病院や診療所などです。医療費の安さは、医療サービスを提供をする国にとって、他国との競争におけるメリットとなります。多くの場合、医療観光の目的は渡航先においてより迅速に、より安価な費用で医療サービスを受けることとされています・
医療観光部門において提供されるサービスの種類は様々であり、それはサービスを受けようとする人の選択により異なります。その内訳は、ごく簡単な歯の治療や美容整形手術に始まり、人工膝関節の置換手術、心臓外科手術、眼科の手術、不妊治療などであり、これらは全て治療を希望する人の選択肢となりえます。
世界の観光大国の多くは、外貨収入を得るために医療観光サービスも提供していますが、医学や医療サービスの点におけるある国の能力は、行楽やスポーツを目的とした観光とは逆に、単に施設などを’拡充し、費用をつぎ込むだけでは得られないものです。ある国の医療観光の重要なインフラには、熟練した医師の存在や医学面での経歴、適切な治療管理インフラ、ある一定の基準を満たした病院や診療所、最新鋭の医療機器や器具、医療関連の法律が存在し管理が行き届いていることなどが挙げられます。ある国にこれらの可能性や整っていることで、健康観光の分野の活性化や一般的な観光サービスとの合併のチャンスが生じます。
イランは、健康観光の分野で高い能力を持つ国の1つです。イランには、優れた専門医や最新鋭の医療機器と器具が揃っており、他のライバル国と比べてより低廉な費用で最高の医療サービスが提供されています。毎年、数千人の医療観光客が治療を受けるためにイランを訪問しています。また、イランには健康村のほか、ミネラルウォーターの湧き出る泉、湯治効果のある温泉が存在していることから、イランは健康観光上さらに有利とされ、今や健康観光の面で最も発展しやすい国の1つとなっています。
イランは、地域において心臓疾患の治療や高度な心臓外科手術、不妊治療、より高度な歯科医療、複雑な脊椎の外科手術、脳神経外科手術、ガンに関する医療センター、美容整形外科手術の面で、比較的優位にあるとされています。また、より弊害の少ない最新鋭の腹腔鏡による一部治療サービスを提供していることは、地域諸国の間ではイラン以外に例がないとされています。さらに、イランは腹腔鏡を使った腎臓移植手術の点でアジアで首位、世界第3位となっています。
イランが医療観光に提供しているサービスの1つは、眼科医療です。イランの眼科医療は、人材面における教育レベルの高さにより、世界でも特別に位置づけられ、イランの専門医は治療や診断の高い能力を有しています。毎年、眼科医学を修めた卒業生を対象にICO・国際眼科評議会が行う国際的な試験において、イラン人の医師は好成績を収めています。イランの眼科医療技術や医療器材は、最新鋭のものであり、イランの一部の医療センターで使用されている眼科医療器材は、世界のごく限られた国でしか見られない珍しいものです。
イランで最も権威のある眼科の医療機関の1つに、ファーラービー眼科専門病院があります。この病院は、1962年、テヘランの旧市街に設置されました。ファーラービー専門病院は、傑出した眼科学の教授や、経験豊かな医師、熟練したスタッフが存在することから、イランの眼科学の拠点とされています。
ファーラービー眼科専門病院は、地域の眼科医の注目を集めている医療機関の1つです。そのため、地域の眼科医は高度専門医療に関する専門医によるカウンセリングのほか、より高度な治療や正確な診断を目的に自らの患者をこの病院に紹介することもあります。ファーラービー眼科専門病院には、優れた医療スタッフ最新鋭の医療器材が導入されており、中東では他に例のない医療センターの1つとされています。この病院には、イラン人や外国人を合わせて年間4万人以上が入院し、5万7000件の外科手術が行われています。
また、この病院には患者の様子を完全に監視するモニターや完全な設備が整う特別なセクションがあります。このセクションのスタッフは全員、英語とアラビア語に精通しており、このセクションの目的は患者に対する迅速で正確、そして質の高い医療サービスを施すことです。
イランにあるもう1つの最新鋭の眼科医療センターとして、ヌール眼科専門病院があります。この病院は、診断や治療など様々な点における、世界で重要な眼科医療サービスの全てを最高の品質で提供しています。さらに、ネガー眼科専門病院も、地域における眼科医療の中心地とされています。この病院は、イラン人の患者のほか、イランでの眼科の治療を希望する外国人患者の多くを受け入れています。