イスラムにおける救世主の出現
すべての宗教や宗派、思想は、世界の一体となった統治を信じています。
ユダヤ教徒は自分たちの世界統治を信じており、キリスト教徒は預言者イーサーの復活を信じています。またイスラム教徒も、預言者の一門の一人による世界全体の統治を信じています。物質主義思想の思想家たちも、世界の一体となった統治が確立され、すべての人が一つの旗のもと、一人の統治者のもとに支配される日がくると考えています。
相対性理論で知られるアインシュタインは、次のように語っています。
「世界のいたるところに平和と平穏が訪れ、人類社会が互いに同胞となる日の訪れは、まもなく来るだろう」
イギリスの歴史家、アーノルド・トインビーは、ニューヨークの平和会議で、世界全体の統治を確立する必要性に触れ、次のように語っています。
「人類を救い、平和を樹立する唯一の道は、単一の世界統治の確立である」
フランスの社会学者、ガストン・ブートゥールは、単一の世界統治を信じ、次のように記しています。
「戦争は政府の指示による直接の結果であり、大小の独立した複数の政府が存在する限り、競争、拡張主義、対立、そして戦争は存在し続ける。将来、たった一人の統治者が、世界に平和と公正を確立することになる」
人類が、戦争や対立、情勢不安から逃れるためには、単一の世界統治を確立する以外の道は残されていないようです。これにより、イスラムは、世界の人々に、世界全体の統治の確立を約束しています。その統治体制では、法、権利、平和、安定、安全が確立されています。
イスラムでは、このような世界全体の統治は、救世主であるイマームマハディが出現したときに実現されると考えられています。その統治体制は、現在の世界のすべての統治体制とは異なるものになります。イマームマハディの統治は、唯一神の信仰に基づいて打ち立てられ、その目的は、各国やその国民を一体化し、意味のない優越の壁を取り払い、人々の間に協力と連帯、統一を確立することです。
イマームマハディの統治体制では、人種、階級、地理、政治思想、言語などのあらゆる違いが無効になります。すべての人がイスラムの慈悲の旗のもと、話し合い、寛容になり、戦争が論理に基づく議論に変わります。また、さまざまな宗教の信者が自由と安全のもと、個人の信仰を維持しながら、少しずつ導かれます。そして、人類の救世主の方針やその人格の影響を受け、しだいにイスラムを信じるようになり、神の支配に服従します。これこそが、世界全体の統治であり、その中で、地球は一人の支配者により、一つの公正な方法によって管理されるのです。
世界全体の統治において重要なのは、世界各地の人々の間に、信仰や精神性の統一が確立されることです。なぜなら、単一の社会や共同体を確立するためには、強力な共通の信条を持つことが不可欠だからです。矛盾したさまざまな世界観は、間違いなく、社会的な対立や分裂を生み出し、人々の統一の妨げとなります。
イスラムの伝承によれば、イマームマハディが出現するとき、世界の人々の心や思想は単一の世界観で支配されます。すべての人は同じ心、同じ言葉を持ち、幸福に向かい、社会的な様式においても、対立は見られません。
シーア派6代目イマーム、サーデグは、教友の一人のモファッザルにこのように語りました。
「お隠れになっている方は、人々や宗教の間から対立を取り払い、一つの教えをすべての人に広める」 この連帯は、強制されるものではなく、神の預言者ムハンマドの生き方と人々の知識の向上によって可能になるのです。
イマームマハディの世界統治の時代には、知識や見識が大きく向上します。イマームマハディは、人類のためにさまざまな真理を明らかにします。そうした知識の向上は、神への知識の基盤を確かなものにします。知識や見識の向上は、迷いや疑いを取り払います。日々、新たな知識が得られ、人間は新たな真実を発見し、より良い方法を見出していくのです。
イマームサーデグは、イマームマハディの統治時代に新たな知識が明らかになることについて、次のように語っています。
「知識を27の文字だとしたら、預言者がもたらし、人々に明らかにしたのは、たった2つの文字でしかない。人々がこれまでに知っているのは、この2つの文字である。しかし、我々の救世主が立ち上がるとき、残りの25の言葉が明らかにされ、人々の間に広められる」
また、シーア派5代目イマーム、バーゲルは次のように語っています。
「我々の救世主が現れるとき、人々の知力を集中させ、知識を向上させる」
人間が社会生活の中で根本的に必要としている事柄の一つは、平穏です。一部の学者は、平穏の条件として、社会が幸福に至ることを挙げています。平穏は、社会の人々の生活のあらゆる側面に現れるべきであり、政治、社会、経済、個人、道徳、権利といった点で、人々が安心できなければなりません。
イスラムの伝承では、イマームマハディによる世界統治は、平穏な統治だとされています。その平穏は、個人的な最小の問題から、世界的な最大の問題までを含みます。この時代、人間は、あらゆる恐怖や不安から遠ざかり、安心して生活することができるのです。
情勢不安や混乱は、イマームマハディが出現する時代には全く見られません。イマームマハディの統治体制の中で人々の間に確立される統一により、平穏と平和が世界中を覆い、人々は安らかに暮らします。人々は、経済的にも、身体的にも安全に包まれて生活します。このような社会では、しだいに盗みや嘘、だましあいが色あせていきます。このような安全は、人々の統一と結びつきによるものです。人々が互いに安心して暮らすとき、混乱は生まれません。
イスラムの預言者ムハンマドは、シーア派初代イマーム、アリーに次のように語りかけています。
「平穏と喜びを伴わない場所に善や幸福はない」
人間は歴史を通して、常に社会における完全な公正の実現を願ってきました。しかし、実際は、さまざまな側面において、公正の完全な実現は、人類の望みからは程遠いものとなっています。とはいえ、人々はこの願いをかなえるために、まだ希望を失っていません。常に、公正の実現を期待しており、いつの日か、その願いが叶う日がやってきます。そしてそれは、人類の救世主であるイマームマハディが出現する日を置いて他にはないのです。
イマームマハディと彼の時代の特徴について述べた伝承の多くでは、公正について述べられています。その一部は、イマームマハディを、完全な正義の象徴としています。
公正や正義について注目すべきなのは、公正の確立と差別の撤廃により、すべての人が社会の統治者と一体となり、あらゆる側面の進歩と発展のために努力する、ということです。コーランは、社会公正の実現のために、さまざまな方法を提示しています。それには、善い行いや喜捨の奨励、恵まれない人々への配慮、貧困や不公正を取り除くための施しがあります。
イマームサーデグは、救世主イマームマハディの公正について次のように語っています。
「神に誓って、彼の公正は人々の家の中にまで入り込む。暑さや寒さが入ってくるのと同じように」