インターネット中毒、社会的と精神的な弊害
今回は、この現象による社会的、精神的な弊害や問題についてみていくことにいたしましょう。
前回は、インターネット中毒による一部の悪影響についてお話しました。今回は、この現象による社会的、精神的な弊害や問題についてみていくことにいたしましょう。
ここ数年、世界の多くの国々ではインターネットが普及し、インターネット中毒は成人の間で拡大する精神面での問題となっています。心理学者などの研究からも、インターネット中毒と、精神的な問題やうつ病との関連性が明らかになっています。精神科医の間では、インターネット中毒は近いうちに一種の精神障害とされると予想されています。
インターネット中毒による代表的な悪影響の例として、コンピュータを長時間連続して使用した後に死亡した若者数名の例が挙げられます。こうした実例により、精神科医を初め世界の多くの人々が、この新しい病気や中毒症状の蔓延に気づいており、またそれらは注意深く調査される必要があります。
一部の精神科医が、インターネット中毒を麻薬中毒に似たものと見なすほど、インターネット中毒の問題は極めて重大です。アメリカ・ピッツバーグ大学が、インターネットの使用者500人を対象に行なった調査から、チャットルームやネットサーフィン、Eメールやネットショッピングに依存している人には、アルコール中毒や麻薬中毒に似た症状が現れていることが明らかになりました。また、これらの人々の多くは、不眠症に苦しんではいますが、コンピュータを遠ざけることができずにいます。さらに、彼らは常に疲れを感じており、自分の周りの人々や社会との関係は最低限に留まっています。
中毒症状について研究している人々の多くは、こうした症状を抱える人々が精神的にすぐ傷つきやすく、神経質という結論を得ています。こうした人々は、自分の周りの問題に過剰なほどに敏感で、普通の人々よりもそうした問題に苦しんでいます。残念ながら、彼らは自己の内面や精神面での問題を抱えており、些細な問題ですぐ気を落としたり、憤慨したり、悩んだりし、それらの問題に論理的に対処できないのです。
心理学者の見解では、社会関係において耐久力がないことに苦しむ人々は、不安や動揺、うつ病、自分に対する不信感を抱えており、バーチャル世界への強い依存症や中毒症状に陥る可能性が最も高いとされています。また、一部の精神科医によれば、インターネット中毒の影響は、離婚や失業、親の放任、経済的、法的な問題とった問題に遭遇して、精神的な打撃を受けた人々に見られる、ということです。
カナダのヨーク大学のデービス博士による、大学生のグループに対する調査結果から、被験者の多くがインターネットに過剰にのめりこんだ動機は、生活面での緊張やストレスを抑えるための手段を得ることにあったことが分かっています。デービス博士は、研究の終了に当たり、インターネットの使用が確かに新しい情報の獲得に極めて有益ではあるものの、これを生活上の問題からの逃避に使用してなならない、という結論を得ています。
過去の経験からは、インターネットに夢中になっても生活上の問題から逃避することはできず、それはあくまでも一時的な手段に過ぎないことが証明されています。なぜなら、インターネット中毒に陥っている人が夜を明かした末にコンピュータの電源を切り、コンピュータから離れたときには、現実の問題が降りかかってくるからです。この時に、困難と向き合うことはさらに難しくなり、うつ病の影響がさらに深まります。結局、モニターが消えてしまうと、孤独感が倍増します。この時、インターネット中毒者は、アルコール中毒者のように、困難から逃れるため再びインターネットに向かってしまうと考えられます。
インターネット中毒者に見られるその他の兆候としては、他人との面会の約束を忘れる、衛生や身なりに無関心になる、友人との会話で苛立ちが見られる、といったものが考えられます。彼らは、決まった時間に食事を取ることも忘れ、コンピュータの前に座って食事をすることが多くなっています。その結果、時の経過とともに、身体的な問題に加えて、神経衰弱を起こしたり、不機嫌になるといった症状が現れてきます。
インターネット中毒者に多い妄想は、インターネットと何らかの関係があるとされています。彼らはいわば、非現実的な世界で過ごしていることになり、仮想空間では自分の思いのままに名乗ることが出来ます。例えば、既婚者でありながら独身者と名乗ったり、学歴やその他の個人的な特徴について偽りの内容を述べることも可能です。即ち、現実の世界から離れた空想の世界で暮らすことができ、自分だけの空想に浸って、実生活から遠ざかることが可能なのです。
インターネット中毒者に見られる最も重要な特徴は、その他の中毒症状のある人々と同様に、現実を受け入れることが出来ない、また精神的にインターネットに依存するというものです。彼らは常に、コンピュータの前に座って人生の時間の多くを無駄に過ごすことを、全く当たり前のことだと主張し、これを正当化しています。実際に、インターネットは彼らにとって、アルコールや麻薬と同様に、現実の世界から逃避する手段なのです。多くの場合、彼らの時間の大部分は、チャットルームやコンピュータ・ゲームに使われています。
インターネット中毒者が多くの時間を過ごしているのは、ニュースサイトやいかがわしいサイトの閲覧、チャットルームへのアクセス、そしてEメールなどです。彼らは大抵、時間の管理が出来なくなり、外の世界との関係を完全に遮断してしまっています。若者の多くは、夜遅くまでインターネットを使用しており、学業に専念している時期の子どもであれば、学校の宿題が疎かになっているのが現実です。
インターネットの過剰な使用による個人的、社会的な悪影響の1つは、社会から遠ざかり、孤立してしまうことです。あるアメリカ人の研究者は、過去35年間にアメリカで人々同士の社会的な関係が大幅に希薄化したと考えています。人々は、選挙の投票や教会での礼拝にも参加しなくなり、近隣の人々との政治的な話題に関する対話、ボランティア活動やディナーパーティへの参加は次第に減っています。さらには、社会的な問題の解決のためにみんなで集まる機会も減少しています。しかし、人々は社会的な問題に関わっているときのほうがより健康、かつ幸せに生活できるのです。
この現代的な中毒症によるもう1つの悪影響は、使用者にストレスや不安、苛立ちを引き起こすことです。インターネットが引き起こす苛立ちの原因の1つは、情報量にあります。心理学者によりますと、ウェブサイトの情報量や、インターネットの速度が遅いことが原因で、インターネットの使用者は大きなストレスを抱えることになります。イギリスのウェブアーカイブ・UKウェブにより行なわれた調査によりますと、200人のうち68人が、ウェブサイト上で情報の検索を待っているときの方が、交通渋滞に遭遇したときよりもストレスを感じると答えています。
ウェブログ上のコメント稿欄で、最も苛立ちを引き起こすものの1つは、ユーチューブの映像或いは各サイト上のコメント欄です。コメント欄を見れば、非常に低俗で卑劣な言葉が使われていることがすぐに分かるはずです。おそらく、インターネット上では本名を明かさないで済むことから、閲覧者は自分の考えていることを何でも自由に表明すると思われます。しかし、ここで重要な点は、その時に苛立ちを抱えている人がウェブサイト上にコメントすれば、他の人の苛立ちをも煽り、このスパイラルが続くことになるというものです。
さらに、インターネット中毒は夫婦関係や親子関係にも影響を及ぼします。現在では、インターネット中毒にかかっている配偶者を持つ人は、ネット未亡人と呼ばれています。統計上、インターネット中毒は家庭の崩壊や離婚につながる可能性があります。おそらく、インターネット上で別の人と関係を持つようになったことを理由に配偶者と別れるという状況を想像することは、普通の人にとっては恐ろしいことのように思われます。しかし、この問題は毎日のように、インターネット空間上で起こっているのです。
インターネット空間上で長時間過ごすことにより、社会的に重要な活動や仕事、有益な娯楽などへの参加が減ることになります。このことは、重要な社会関係や仕事、教育の機会を失うことにつながります。さらに、この種の中毒症による危険として提起されているのは、借金を抱えることです。インターネット中毒者は、その使用料や各種のサイトへの参加費用、そしてコンピュータに必要なその他の部品を用意するために、自分にとって本当に必要なものを手放してしまう可能性があります。
例えば、あるイラン人の精神科医は、自分の患者について、次のように語っています。
「インターネットに夢中になりすぎている子どもを持つある女性が、次のように述べた。“私の子どもは、大学の授業料の半額以上をインターネットのために使い果たし、授業料の支払いに苦労していた。そのために、まるまる1タームを休学することに決めた”」